4日目:進化する獣

 四日目。久々にやらかしてしまった。昨日、私は巨人を倒して島を出るつもりだった。それがこのザマだ。左肩と脇腹の負傷。今は胸上町の宿で横になっている。


 正直、想定外だった。まさか巨人が進化するとは……。

 その姿は、胸から上に関しては以前とほぼ変わりない。両手からするどツメが生えているくらいである。だが腹部から下の変化は驚異的だった。細長く伸びた胴体がうろこに覆われている。まるでヘビの身体である。巨人は一晩で、半人半蛇の化け物へと変貌へんぼうげていた。

 これには私もかなり動揺した。変異生物ならともかく、機械生物でこんな話は聞いたことがない。事前に準備した手榴弾も役には立たないだろう。ここは一時退却を――そう思ったが、鉄門は固く口を閉ざしたままだった。どうやらこいつと戦う以外に道はなさそうだ。

 ヘビ化した巨人は以前よりも俊敏しゅんびんに動いた。その動きは変則的かつ自由自在で、攻撃の来る方向や高さを見極めるのが難しい。私のスピードでも猛攻を防ぐのがやっとだった。

 結局、私の取った戦術は、肉を切らせて骨を断つ。肉体の負傷と引き換えに、ヘビの腹を切断することに成功した。腹部を失った巨人は、地面に爪を突き立てながら、恐ろしい速度で逃げていった。


 昨日はこうして戦いが終わり、私は胸上町へ帰還した。この町に医者がいたのは幸いだった。ここには宿も薬局もある。まさに島の心臓部のような町だと実感する。私は病院で治療を受け、しばらく安静に過ごすことに決めた。


 ◇


 五日目。だいぶ傷がえてきた。この町の薬はよく効く。三日目に島を出るつもりで買い込んだ食料も役に立った。御腹町が消えた今、これだけが私の命綱だ。大切に少しずつ頂こう。

 今日は普通に動けるようになったので、町を散歩することにした。ずっと寝ていては身体がなまる。少しでも運動して感覚を取り戻さなくては……。

 宿を出て胸上町を歩く。そういえばこの町には図書館があったはず。たしか地図に書いてあった。「島の歴史を知りたければ図書館を訪ねろ」と門番の老人も言っていたっけ。もしかすると、巨人について書かれた本も見つかるかもしれない。次の戦いのヒントを求め、私はそこへ向かうことにした。


 図書館に行く途中、町の広場で一本の古い塔を見つけた。石造りの高い塔だ。観光名所のように見えるが、地図には載っていない。

 私は興味本位で、塔の根本へと近づいた。塔の入り口の扉はぶ厚い鉄でできており、厳重にカギがかかっている。取っ手に巻きつけられた鎖と南京錠が三つ。それらが外部からの侵入を断固として拒んでいた。

 ずいぶんと古い建物だ。私は扉にそっと手を触れた。すると、扉の向こうから泣き声が聞こえてきた。少女の泣き声だった。誰かが閉じ込められているのだろうか。声をかけようか悩んでいると、「助けて……誰かこれを、終わらせて……」。その言葉とともに泣き声が止んだ。扉を叩いたが返事はない。

 不審に思い、近くの住民に話を聞いてみる。すると「塔には誰もいない」「そんな話は聞いたこともない」と皆口々にいう。なんだか気味の悪い展開になってきた。もう関わるのはよそう。私は諦めて、その場を立ち去った。


 図書館に着くと、私はすぐさま係員に声をかけた。この島の資料はどこにあるのかを聞く。すると、特別資料室(1)に保管されているとわかった。特別資料室は(1)から(4)まであり、巨人に関する本は(4)で閲覧できるらしい。しかし現在、資料室は一般公開されていないという。島民以外は利用できないそうだ。

 なんだ、話と違うじゃないか。私はガッカリしながら、館内を散策して回った。棚には■■■■以前の小説が所狭ところせましと並んでいる。だが、とくに興味を引くような本はなかった。結局、何も収穫は得られないまま、私は図書館を後にした。


 外へ出ると町はだいぶ暗くなっていた。来た道を戻りながら、今後の戦いに向けて作戦を考える。腹を切られて逃げ帰る巨人……。すさまじい速度だった。負傷状態であのスピード。やはり普通の遺物ではない。今度会うときはどんな進化を遂げているのか、考えたくもなかった。

 私は確信する。おそらく次が最後の対決になるだろう。通常の戦い方ではたぶん勝てない。この巨人は私の力量をとうに越えている。もっと別のやり方で対抗しなくては……。

 一瞬、DNA分析機アナライザーのことが頭をよぎる。あれは最近買ったものだが、まだ一度も使えていない。変異生物の遺伝子情報を取り込み、自身をスキルアップさせるアイテム。正直、私の趣味には合わない代物だが、今回のような不測の事態に備えて買っておいたのだ。もっともこの島では無用の長物となってしまったが。

 しかし似たような手段を戦いに取り入れることはできるはずだ。私は今、胸上町にいる。そしてこの町には薬局がある。ということは、つまり……。

 薬漬けドーピングによる能力強化。これしかない。筋力、スタミナ、反射神経と動体視力の向上など……。自身のステータスを底上げする薬を用意するのだ。余ったお金で普段使わない武器を買うのもいいかもしれない。巨人の腕をぶった切るなら長剣なんかが良さそうだ。

 よし、そうと決まれば、明日は薬局と武器屋へ行こう。そう決心すると、私は宿へ戻り、ゆっくりと眠りについた。

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