大学へ進学しながらも、字すら読めず馬鹿者と呼ばれるリウト。老練の実力者でありながら、殺しを厭い、臆病者として蔑まれるダリル。二人が協力して解封師の少女を助けたことから物語は始まる。
白騎士と黒騎士の戦いに巻き込まれた三人は、その争いの中で生き延びながらも、その戦いを収める方法を模索するのだが……。
タロットカードの暗示により示される資質が面白い。その上で、欠陥ばかりの主人公たちがそれを克服し、あるいは受け入れて成長していく姿には目頭が熱くなる。
独特の世界観を構築し、その世界に生きる人々の息遣いを感じさせるファンタジーの快作にして、主人公たちの成長と活躍を正面から描いたアクション巨編。
字も書けない「馬鹿な」魔術師の青年リウトと、一度も人を殺したことのない「臆病者の」老騎士ダリル。
冒頭から喧嘩ばかりしている二人はとある任務でローズという解封師の少女に出会い、彼女を守るため協力することになります。
世界は、白騎士と黒騎士が凄惨な戦争を繰り広げている情勢。どんな宝箱も、罠も、解除してしまうという「解封師」という職業は必要とされていますが、彼らは敵のトラップを解除させるために戦いの最前線に送られ、命を落とすことが多いといいます。
いつもいがみあっている魔術師と老騎士ですが、年端も行かないローズを戦場へ送り出すことはできない、と考えが一致します。
二人は少女を父親がいるであろう街へ連れてゆくため、護衛をすることに決めるのですが――。
戦況の鍵を握るのは、タロット・カードによって示された『資質』を持つ者たちです。各々が強力なスキルを持ち、カードごとの優位も決まっているのですが、単体で無双できるような能力ではありません。
この物語の面白いところは、各自の個性や能力に、特殊なアイテムを組み合わせての戦術。そして、タロット・カードの『資質』を持つ者たちの人間模様、運命の関わり合いです。非常に緻密な伏線が仕込まれております。
世界の運命を決するのは、タイトルにもある【隠者】の『資質』。
努力すること、前進すること、人を愛すること、平和を夢みること、希望ある未来を見ようと必死に生きること、自分を顧みないこと。
泥と血に塗れた世界できらめく英雄の生き様を、ぜひ見届けてください。
落ちこぼれ魔術師リウトと老騎士ダリル。周囲からお荷物あつかいされているふたりの成り上がりストーリーである本作に、ヒロイン・ローズがパーティに加わる展開が、斬新なエッセンスになっていると感じました。どんな鍵も開けてしまう解封師。なるほど、考えてみればすごいスキルです。この宝箱からは何のアイテムが出てくるのかな? と誕生日やクリスマスにプレゼントを紐解くようなワクワク感を味わえます。
物語冒頭から喧嘩ばかりしているリウトやダリルも、敵に襲われたときはローズを逃がそうとするなど、本当の馬鹿や臆病者ではできない勇敢なふるまいをかいま見せてくれます。そうした愚直なまでの正義感が、ふたりの魅力でもありますね。
リウトが大学で受けた仕打ちや過去には、胸が痛みました。ですが、リウト自身さえ否定していた彼だけの才能に気づき、真っ直ぐな言葉をかけたローズ。彼女の存在がしだいにリウトたちの中で大きくなっていき、三人の絆が深まっていく展開に心洗われます。
決して恵まれた境遇ではない彼らですが、それぞれの秘められた力を駆使して困難に立ち向かっていく今後のストーリーにも期待です。