第79話 見知らぬ大人

 週末といえば試合、試合で埋まっていく日々。

 平日もまた練習ばかりで、もはやチームメンバーは家族と言っても差し支えないほどに親しい存在となっている。

 毎日通う中学校の友達よりもずっと近いチームの子たち。夏南は母親しか家族がいなかったので、なんだかそれがとても嬉しいと感じていた。

 友達よりも近い存在。それがチームの皆で、そして一緒に練習するコーチや監督、そして送迎や試合観戦の度に顔を見せてくれる他の保護者たちまでもが、まるで身内であるかのように、無意識ではあったけれどもそう感じていた。保護者たちも自分の子供以外のチームメンバーたちを大切に扱ってくれていたので、益々そう思えたのだろう。

 予選はリーグ戦なので勝ったり負けたりを繰り返しながらも、少しでも勝点を増やして上位へ登ろうと貪欲に挑んでいく。

 そして昨年は気にも留めなかったけれど、そうやって繰り返す試合会場にちらほらと見かける見知らぬ大人の姿を見かけるようになった。

 日差しが厳しくなる5月、日焼け止めをペンキみたいに塗りたくっても焼けてしまうグラウンドはかなり暑い。

 そんな中、軽めのランニングをしながらグラウンドの隅へ視線を向けた夏南に、ちょうど隣を走っていた若葉が話しかける。

「気になる?」

「え、と。誰だろうって」

 不思議に思った夏南がそう答えると。

「どっかの高校の監督だと思うよ。多分、だけど。」

 更に後ろから郁海が言う。

「ウチ知ってるよ。あれ隣県の私立だよ。あのジャージ観たことある。」

「やっぱなぁ。・・・未冬先輩じゃん?お目当ては。」

「だよねぇ。でも早苗先輩もフォワードだしね。」

 目を丸くして驚いている夏南に、まるで追い打ちをかけるように。

「スカウトかなぁ。早いねぇ・・・年々早くなるね。」

「青田刈りじゃん。」

「それ、就職でしょ。」

 前の三年生が卒団したのはついこの間だと言うのに。

 もう次の学年が進路を見据えなくては行けない時期にきているのかと思うと、意味もなく焦燥感が襲った。

「未冬先輩、遠くの学校へいっちゃうのかな・・・。」

 寂しそうな悲しそうなその声が夏南の口からでたのは、びっくりするほどに無意識だった。自分が口にしたことに気づかないかのように、そのくらいに普通に言っていた。隣と後ろを走る若葉と郁海が思わず顔を見合わせてしまうくらいに。

 ベンチへ戻ると滝のように汗が流れ出た。ランニングから戻った選手が水筒の水をぐいぐいと飲み干していく。

 田村コーチが塩分も取れよとスポーツ用のタブレットを配っていた。受け取って口に放り込みガリガリ噛み砕く。動いているときに口の中に味がするのが嫌だった。

 高校のジャージを着た見知らぬ大人が父兄席の方へ寄っていくの視界の端でわかる。そこには夏南の母親もいた。一緒に観戦するつもりなのだろうか。





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