第78話 お別れのとき

 3月の最後の週末に、到底厳かとは言い難い雰囲気で卒団式が行われた。

 三年生が卒団するこの式では二年生の誰もが泣いていた。この2学年はとても仲が良かったし、互い有ってのチームだったと言えただろう。

 はじめはいつものグラウンドで、引退試合と言う名のふざけたゲームを5回も6回も行った。大声を出してたくさん笑って、ルールを逸脱するような真似事をして。でも、怪我だけはしないように気をつけて。副審が意味なく旗を振り叱られて、そして笑った。ホイッスルを持たない選手が口でぴぃぃ〜と言って真似た。何かと接触してはファウル!!と叫んでまた笑った。

「あと、もう一本、監督!」

「あでぃしょなるたいむ〜!!」

 まだまだふざけ足りなくて、何度も何度も懇願するけれど。

「時間がないからもう駄目!!」

 厳し目の一言で最後まで騒いでいた未冬も諦める。

 それから、ベンチに集合し、静かに並んだ。

 昨年の戦績を述べて、監督とコーチが卒団生全員に激励の言葉を送る。記念品を卒団生の保護者がコーチに手渡し、在団生からも餞別品を送る。

 その時に、杏先輩が夏南へそっと近寄ってきたのだ。

「いい子だね〜、今までありがと夏南。これからのこのチームをよろしくね。」

「あん、ず、先輩・・・?」

 なぜそんな事を自分に言うのかわからない。

「チームを引っ張るのはフォワードだけどね、土台を務めるのはバックなんだよ〜。夏南はチームの誰より冷静だ。少なくとも、見た目ね。それって、実はすっごく大事。何があっても、どんなに大量失点しても平気な顔をしているって、とても難しいことなんだ。負け試合も、無様にならないように、夏南がしっかりみんなのテンションを保って。上げなくてもいい。下げない、下げさせないこと。」

 いつもキーパーグローブに守られている手がそっと夏南の頭を撫でる。

「もしかして、杏子先輩が」

 なんとなくいつものんびりしているように見えるのは。

「いや〜、これは別に演技じゃないよ〜?元々わたしはこんな感じ。でも、それが幸いしているっていうのはなんとなくわかってた。ていうか監督に言われた。わたしこんなんで大丈夫ですかね?って聞いたことあんの。そしたら監督が『杏子がそんなだからいいんじゃん。』って言うのよ〜。」

 はははっと笑って先輩が言う。

「薫はいい子だしいいGKになるよ〜。でもね、薫は顔に出ちゃうから、夏南がしっかり支えてやんの〜。わかった?」

 夏南は涙を堪えるだけで精一杯で、声に出さなかったけれど。

 心の中ではしっかりと返事をしてひたすら何度も頷いてみせる。

 頼りにしていると言われた気がして嬉しくて。

 べそべそ泣いている2年生ほどではないにしても、夏南も三年生とお別れが悲しくて仕方がなかったのだ。

 派手な活躍をする二年生と違って三年生は影にかくれるように地味なメンバーだったしその働きは地味だったけれど。それだけに、地味な夏南のことをよく見ていてくれたのかもしれない。


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