第27話 故障

 嘘だと思った。

 鈍い音。けれども、異様なほどその音はフィールドに響き、ボールの行方よりも音の出処が気になるくらいだったのだ。

 相手方の31番と、こちらの14番が激突した。

 互いにヘディングでボールを取り合った結果だった。

 着地した31番はよろけて地面にひっくり返り、その拍子で14番までもが前につんのめる形で転倒する。

 ボールは転々とハーフラインを超えこちらの陣営へ転がり込み、若葉がそこへ突っ込んだけれど、思い切りボールをラインの外へ蹴り出した。

 審判の笛が高らかに鳴る。

「・・・!先輩!!」

 一度は立ち上がった未冬が、崩れるように蹲ったのだ。

 その日で一番速く走ったのではないだろうか、というくらいに。夏南は未冬の元へ駆け寄った。

 一番近くに居た相手チームの31番も心配して寄ってくる。

「ごめんね、大丈夫?どっか、打った?」

 長い髪をお団子にしている31番が申し訳なさそうに跪いた。

「・・・いや、こっちこそ、ごめん。着地の時踏んづけたかも・・・ってぇ。ヤバい・・・立てない。」

 未冬が苦しそうに眉を歪めて、左足を押さえている。

 キャプテンや監督も寄ってくる。

 夏南は何も考えず未冬の前に膝をついた。

「先輩、乗って!ベンチに運びます!」

「え・・・」

「はやく!!」

 言われるままに、そして、若葉と早苗の手を借りながら、未冬は夏南の背中に乗った。

 出来るだけ揺らさないよう、そして背中に衝撃を与えないよう、静かに、けれども速やかに夏南は立ち上がりそのまま、まるで水平移動でもするかのようにするするとピッチを速歩きで出ていった。

 沢村があっけに取られたように見つめていて、審判を務める田村コーチが唖然としている。

「すっげ・・・ああまで上半身をゆらさずに歩けるもん???」

 思わず監督が口にした言葉に、キャプテンがはっとした。

「そんなことより、監督、手当を!!」

「あ、そだった!!大変だ、実花、救急バッグ持ってきて。北斗、合宿所の厨房へ行ってて氷をたくさんもらってきて。郁海、未冬の代わりに入りなさい。・・・そっちの彼女、ごめんね?足を踏まれたのは君の方だよね?」

 31番の選手に向けて監督が謝った。

「いえ、うちは平気です。」

「いやいや、君も痛かったでしょ?君はひねったりしてない?未冬はね、多分君の足を踏んづけちゃったから着地が悪くなったんだと思う。本当にごめん。頭の方は大丈夫?あいつも石頭だからねぇ。」

「大丈夫です。」

「そっか。すぐに再開させるからちょっと待ってね。」

 相手チームの監督もゆっくりと寄ってきた。そちらには田村コーチが対応している。選手達がみな、不安げな顔を見合わせているが、これ以上動揺が広がらないよう、田村コーチは一旦全員を給水させることにした。 



「先輩、痛いですか?今、冷やします。スパイク、脱がせますよ。」

 ベンチへ戻るやいなや、かいがいしく世話を焼く一年生は、それほど動揺しているようには見えなかった。

「大丈夫〜。あたた・・・そっち、ゆっくり頼むわぁ。」

 情けない声を出す二年生は、眉間にシワを寄せた。

「足首ですか?」

「たぶんね。」

 てきぱきとけが人の介抱をしている夏南。北斗が持ってきてくれた氷を氷嚢に入れて未冬の足元に添えた。

「先輩、寝て下さい。足を高くします。」

「・・・あんた、凄いねぇ。一年生だってのにビシバシと。」

 遅れてベンチへ戻ってきた監督が、自分のやろうとしていた手当を夏南がどんどん進めていることに驚きを隠せない。

「・・・少年団の頃、怪我人が出る度にやってたので。」

 




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