第15話 みんないっしょ

 秋のシルバーウィークを使って、合宿することになった。

 合宿とは言え、試合もコミコミだ。つまりは、サッカー漬けの二泊三日ということになる。

 夏南にとって家族以外との泊まりなど、小学校での修学旅行以来だ。

 母親が用意するもののリストを監督から渡されて頭を悩ませながら買い揃えてくれていた。

 小学校の時の修学旅行は、特に楽しみにしていたわけでもなく、かといって、授業するのもだるいので、旅行の方がいいかな、という程度だった。冷めた小学生だった自分が可笑しい。その前に行った、少年団の合宿のほうがはるかに楽しかったのだ。

 少年団での合宿はサッカー三昧。到着してすぐに現地のチームと試合が組まれ、寝る前まで筋肉トレやストレッチを、チームメイトたちと笑いながらやった。誰が一番腕立て伏せが回数できるか、とか、でんぐり返しの芸術的な回り方とか、くだらないことをしていて、監督に怒られた。彰一や蓮太郎達と、心ゆくまでボールを蹴って、競うように御飯を食べて、帰りのバスでは爆睡で。

「あなたは修学旅行より合宿のほうが好きだものね。」

 合宿所へ向かう車の中で、母親が嬉しそうにそう言っていた。

「くれぐれも怪我に気をつけて。」

「うん。」

 駐車場でもはや恒例となりつつある母親のチームメイトたちの大袈裟な挨拶を見送ってから、夏南はグラウンドへ向かう。

 今日のお相手は格上のチームだと聞いている。勝てるだろうか。いや、相手になるのだろうか、というレベルだ。

 しかし、正直に言って、夏南は相手が強かろうが弱かろうが、関係ない。有名なチームだろうが無名だろうがどうでもいい。

 ただ相手をしてくれるから、試合が出来る。その事を有り難いと思っている。

 ボールを蹴るだけのこのスポーツが、とても好きだった。

 そして、それが上手な人が好きだ。そういう人の役に立ちたい。ただ、それだけだった。

 監督や同級生が、相手チームについて詮索したり研究したりするのを、右から左に聞き流している。顔だけは真剣に聞いているふりだ。

「カナ、あんた、聞いてるような顔してるけど、本当にわかってる?」

 前列に並んでいた未冬が、突然振り返った。

「はい。」

 短く、答えた。

 なんか絡まれるのかな、と心中では複雑な思いだ。

「・・・なら、いいけど。」

 そう言ってその仏頂面をまた前に向けた先輩は、監督の方を見ている。

 なんだか、少しだけ拍子抜けした気分だった。



 夕食の御飯を三杯食べた人には景品が出るということで、若葉と夏南と早苗が食堂の真ん中で監督に景品を受け取っていた。

「ちょ、ずるくないですか!?」

 と他の選手からブーイングが飛び出たけれど、監督はどこふく風だ。

「全員が三杯食べれば、全員分用意したんだけどね?」

 チームジャージの上下セットだった。残念ながら背番号はない。希望すれば付けてくれる。これから冬に向かって寒くなると使うものだから、誰もが欲しがるのは当然だった。

「デザイン違うんだ〜。新しくするんですね〜。いいなぁ〜。可愛いこれ」

 三年生が言うが、三杯食べた三人以外は、欲しかったら自前で買うのだ。チームの名前が入った真新しいジャージは、さすがに三年生は買う気にはなれない。あと一年も着ないからだ。

「いいな〜、欲しい〜。」

 三杯どころか一杯がやっとの未冬が珍しくそんな甘えた声を出すのは珍しい。

 合宿ともなると、普段は見れない皆の姿が見られるというのは、本当だった。

 今日の未冬は、なんだかいつもと違うような気がして。


 

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