第16話 問題提起

 合宿所には宿泊所やお風呂、食堂、そして体育館や武道場も付属している。夕食の後、同じ部屋に泊まる5人ずつでお風呂に入った。

「わっ・・・夏南、胸でっか。」

 タオルで隠していたのだが、若葉に見られてしまった。

「本当だ・・・いいなぁ、どうしたらでっかくなる?」

 北斗までもが覗き込んでくるので、口元ギリギリまで、湯船に沈む。二人がそんな事を言うから、杏子先輩や早苗先輩までもが近寄ってきた。

「どれどれ〜。いいじゃん、ちょっとくらい、見せて♡女同士なんだしさ〜。」

「・・・やです。先輩、セクハラ。」

 お湯が口に入りそうになりながらもごもごと抵抗する。

 確かに他のチームメイト達は成長途中というのもあって、まだ胸が大きい子が少ない。夏南と同じくらいのバストサイズは、監督と薫くらいではなかろうか。

「腕立て伏せ頑張ったら、段々厚くなったんです。」

 あまりにもぐいぐいと覗き込まれるので、大きくなった理由と思われることを口走る。

「・・・それな。」

「腕立て伏せ、マジきついよ。夏南ほど出来ないし〜。」

 筋肉トレが苦手な北斗や若葉が口を揃えて言うと、

「・・・それだけが理由じゃないはずだ〜。」

 夏南と同じ回数の腕伏せをこなす杏子が、思わず自分の胸をじっと見ている。 

「そろそろ出ないと、次の人が入れないから出よう。もう言わないから、夏南出ておいで。」

 のぼせることを懸念して、キャプテンが促した。


 全員の入浴が済むと、武道場の畳を借りてストレッチやヨガをやる。

「深く息を吸って〜、吐いて〜、ハイそこで曲げて〜。」

 沢村監督自ら指導を買って出ている。監督はヨガ歴5年だそうだ。

 彼女の指導の元、選手達全員が畳の上に座り様々なポーズをとっていた。

「呼吸大事だよ〜、しっかり吐いてね。」

 柔軟性は勿論、意外と筋力も必要なヨガである。出来ない選手の口から苦しそうな悲鳴やうめき声が洩れる。

「はい、次〜、戦士のポーズ〜。猫のポーズ〜。コブラのポーズ〜。」

 身体が硬くてそうそうにポーズを諦めた未冬や弥生が、周囲の他の選手をじろじろ見る。

「ん〜、監督ほど柔らかい子はさすがにいないね〜。一番はやっぱり杏子先輩かな?」

 弥生がそう話しかけると、未冬が誰かを凝視していることに気がついた。その視線を追いかけると、二人並んだ一年生が戦士のポーズをとっている。やがてコブラのポーズを取る夏南、猫のポーズを取ろうとする郁海。どちらも見事にポーズが決まっている。

 未冬から見て、郁海は文句なくサッカーの技術があると思った。監督が言うところとの、センスがある、と言うやつだ。そして、夏南は残念ながら、そういうものが無いように見える。

 だが、センスは無いけれど、体力は凄いと思い始めていた。

 体幹がしっかりしているし腕力もあり、身長も伸びてきていて未冬を超えそうだ。サッカー云々はどうあれ、基礎体力が優れている。足は速いとは言えないけれど、それでも中学女子としては平均を遥かに超えるタイムを出すだろう。もっとも、未冬や早苗は彼女よりさらに速い。クラブチームには、陸上競技でも好成績を残せるような記録保持者がゴロゴロいるのだ。

 先日、キャプテンの早苗に言われたことを思い出す。

 早苗に指摘されたのだ。未冬が、夏南にばかり辛く当たっている。そして、そのことに本人は勿論、周囲もはっきり気がついている。このままでは彼女が孤立しかねないから、もっと優しく接するようにと、説教を食らった。

 だから、この合宿で、少しでも仲良くなるようにしなければと思っていたのだ。





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