第14話 チームメイト
練習の終わりに、グラウンドのブラシ掛けをやっている。夏南は率先してこの手の雑用を自分から引き受けた。
人見知りが激しくて、いまだに上手く会話が出来ないので、何か作業をやっていれば話をしなくて済むからだ。
すると、ベンチの方で声がする。
顔を向けると、未冬が一年生を叱りつけていた。
叱られているのは、ミッドフィルダーの
いつも明るくて、上級生にも好かれている子だったはずだ。練習が終わった後など、三年や二年とじゃれて遊んでいるところをよく見かける。夏南は見ているだけで参加することはないが、内心は羨ましかった。
「なんであそこでボール見送ったの。あんたの足なら追いつくでしょ。」
「え、ライン超えればいいかと思って・・・。」
「じゃあ最後までしっかり相手を押さえ込みなさいよ。そのためにも走るべきでしょ。」
「どうせ、追いつかないと思ったから。」
「追いついたら、向こうにボール取られちゃうんだよ!」
「すみません。」
項垂れている同級生は、悔しそうだった。ここまで言わなくてもいいだろうに、と思っているのがよくわかる。結果的に、向こうにボールは渡らなかったのだから。
コートの隅へ転がりでたボールを追わないと、叱られる。夏南は少年団時代からコーチに言われてきたことだ。だから、たとえ追いつかなくても、追うことは止めない。
「まあまあ、もういいじゃん。北斗も反省してるからそのくらいにして。」
キャプテンの早苗が間に入った。
「だって、先週も同じこと注意したのに、またやったんだよ。」
「そんな一朝一夕に出来るようにならないから。ね、北斗もわかったよね?さ、もう行っていいよ。ブラシ掛け、替わってやんな。」
軽く頭を下げた北斗が、逃げるように走って夏南の方へやってくる。
「ブラシ、替わるよ。」
「あ、うん。」
「・・・夏南さぁ。」
ブラシを手渡す時、北斗が話しかけてきた。
「いっつも未冬先輩に叱られてるじゃん。・・・よく我慢してるなって、今日は、思ったよ。」
それは北斗なりの、夏南というチームメイトに対する思いやりとか、同情とか、そういう言葉だったんだろう。自分も同じ目に遭ったからよくわかる、とでも言う風に。
「え・・・あ・・・うん。」
「夏南って我慢強いよね。すっごく真面目だし。あんだけダメ出しされ続けてても、ちゃんと辞めないでここにいるじゃん。先輩の小言のせいで、辞めたがっている一年生ポロポロ出てきたらしいよ。」
そう言われても、なんと返事したらいいのかわからない。
「そうなんだ。」
小さく呟くだけだ。
北斗の言ってることはわからないでもない。実際、上級生たちからの指示という名のダメ出しやきつい注意は試合が始まると増えていった。入った当初はイイコイイコされておだてられてきた新入生達も、そろそろお客様扱いが終わるとわかってくる。
中でも未冬は厳しい。・・・というか、はっきり言って未冬は夏南に限って厳しかった。厳しくなったのは最近ではなく、当初からだったし。
だから、彼女が他の一年生にこれほどしつこく文句を言ったのは今日が初めてだろう。未冬が余りにも夏南にばかりいうものだから、他の上級生はもう、夏南に何も言えなくなってしまっていた。余りにも可哀想で。
その分、別の一年生には、他の上級生が注意をしていたのだが、今日はどうしたわけか、未冬が北斗にキレたのだ。
叱られているのは自分だけじゃないんだ、と思うのは、ほんの少しだけ安堵する。
けれど何故か、腑に落ちなかったのは。
未冬が自分以外の一年にあれほど怒ったことが今までなかったからだろう。
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