第12話 だれかさん

 中学校から帰宅するとすぐに母からの伝言を見る。それは、冷蔵庫のドアにはってあるメモだ。

”夏南へ。今日は、練習お休みだって。ママ残業で遅くなるから冷蔵庫に入っているおかずとごはん、チンして食べてね。”

「お。」

 母親のところへ先に休みの連絡が行ったのだろう。放課後の練習がないと、母は大抵残業してくる。夏南の送迎がないからだ。夏南のクラブチームの送迎がある日は残業出来ないので、早く帰宅している。 

 夏南は中学校の制服を脱いで、洗濯機に放り込んだ。ずぶ濡れである。朝から雨が降っていて、今日はとてもグラウンドが使えないだろうと予想していたから。

 降雨時でも練習が有るのは、人工芝グラウンドの練習日だけである。以前は土のグラウンドでもやっていたそうだが、今は無い。

 リビングの充電器に挿しっぱなしの携帯電話を手に取る。母親からメモと同じ文言が届いており、練習中止の連絡も来ていた。

「彰一か〜。何なに〜。」

 同じ中学校の同級生である真下彰一ましもあきかずからメッセージが届いている。

”練習休みだったら、一狩り、やんね?”

「おお、いいね。やるやる。」

”休みだった。狩り行く。ログインするとき、メッセ送る。”

返信すると、すぐにまた返事がきた。

”蓮太郎もやるって。三人でチームつくろ。”

”おーけー”

 同じクラスの剣持蓮太郎けんもちれんたろうも、よく一緒にオンラインゲームに興じる仲間だ。

 そして、二人共クラブチームに入っている。チームは別々だが。彼らは小学校時代夏南と同じ少年団にいた。当時から仲が良くて、今も時々こんな風にオンラインゲームを一緒にしたり、学校の休み時間にボール遊びしたりしている。きっと、彼らのチームも雨降りで練習が中止なのだろう。

 室内着に着替えて冷蔵庫から夕飯を引っ張り出した。

 夏南の家は母子家庭だ。二人きりの家族である。だから、母親がいなければ夏南一人で留守番だ。

 もうすっかり慣れっこなので、寂しいと思うこともない。

 夕飯のおかずであるハンバーグを電子レンジに入れて、温まるの待つ。

「・・・みんなは休みの日はどうしてるのかな。」

 ふと、未冬は今頃どうしているのだろうか、などと思った。夏南は、他のチームメンバーとは中学校が違うので知りようがないけれど。

 練習がなくてつまんない、などと行って地団駄を踏んでたりするのだろうか。あるいは、これ幸いと浮かれて遊びに行っているのか。行くとしたら、どんなところに、誰と遊びに行くのだろう?それとも、家でじっとしているのか。まさか、勉強している?

 やっぱり想像もつかなかった。チームにいる時の未冬は、サッカー選手としてしか見ることが出来ない。ごく普通の中学生女子である彼女が、想像できない。

「早苗先輩とかなら、想像出来ないこともない、のに。」

 きっと早苗先輩や杏子先輩は、家でゆっくりとおやつを食べたりストレッチしたりしていかもしれない、などと思ったけれど。

 もしかしたら、自宅で自主トレしているのかもしれない。それが、一番未冬先輩にはしっくりくる。

 夏南が想像の翼を広げていると、電子レンジが音を鳴らして加熱調理を終えたと知らせてきた。

 

 夕食を食べ終えて、ゲーム機をセットすると携帯電話から真下にメッセージを送る。

”お、早いじゃん。蓮太郎はあと30分後だってよ。”

”わかった。今日はどこのステージ行く?”

”六番目!まだ倒せてないモンスター、いるんだ。”

”よし行こう。こういうの、体験できる遊園地のアトラクションがあるんだってね。どこだったかな、確か、この六番目ステージじゃなかった?”

”テーマパークだろ。面白そうだよな。”

”だね。どんだけリアルなんだろ。”

 世間話をしながら、夏南は自分のアバターの戦闘準備をしていく。機敏で近接戦闘を得意とする双剣を武器に使う、短髪の細身の剣士である。比較すると、彰一のアバターは大柄でマッチョだ。

 二人のアバターが並んでいる画面を見ながら、ちょっと思ってしまった。

 未冬と自分のようだと。

 細身でスラッとしたモデルのような未冬に、大柄で体格のいい自分。

 美女と野獣だな、と思って、なんか笑えた。

 このアバターは、自分の彼女への憧れが具現化したものなのかもしれない。


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