第11話 汗まみれ

 週に一度の筋肉トレーニング日は、月曜日だ。

 筋トレ専門コーチが、グラウンドで待ち構えている、恐ろしい曜日である。とはいえ、専門コーチは多忙なため、必ず毎週いるわけではない。

「ごとちんっ!」

「コーチと呼んでください。」

「ごとちんコーチ!」

 後藤陽史ごとうひふみコーチが、仁王立ちしてグラウンドの中央に立っている。

 仁王立ちをしてはいるが、小柄なせいかいまいち迫力がない。怖くないのだ。

 だが、それは見た目だけで、彼の課すトレーニングは中々厳しい。耐えられず音を上げる選手も出ていた。

 彼の前に整列して、新キャプテンである早苗が号令をかけた。

「お願いしますっ。」

「はい、よろしくね。今日、ちゃんと御飯食べてきた人〜。肉か魚、食べましたか〜?お菓子しか食べてないなんて人いないでしょうね〜?」

 ごとちんコーチはまず当日の食生活のチェックをする。表情や顔色を見てその日の体調も確認した。

「はい、小雪はぐるぐるバットなし。杏子は、シャトルラン追加ね。後は、みんな同じでいいかな。・・・じゃあ、広がって、ストレッチから行きましょう。一年生は、上級生をよく見て、真似してね。」

 ストレッチも、筋力トレーニングも、選手たちにとって中々にきつい。ついこの間まで小学生だった少女たちにとっては尚更だ。

「うん、41番、すごいね。柔軟性もいいし筋力あるね〜。35番もいいよ。あ、まだ名前覚えられなくてゴメンね、覚えるまでは背番号で呼ぶね。俺、物覚え悪いんだわ。あー、そっちの二年生、サボらない。手ぇぬくとすぐわかるよ。」

 ものの30分で、一年生は息が上がってついていけなくなる。ついていけているのは、若葉と夏南だけだった。

 それでも、かなりきつい。普段意識していない筋肉のトレーニングは、まずその筋肉の場所を確認するところから始まるのだ。総じて体幹の弱い選手は、筋トレは厳しく感じるようだ。

「うん、いいね。35番と41番、22番は、監督のところへ行ってキックの特訓してもらいなさい。君たちは大丈夫そう。他の一年生は、少し休んでからストレッチ。二年、三年は、残りのサーキット、続けてね。」

 上体起こしやらバービーやら腕立て伏せやらハードな種目が続くサーキットを上級生はひぃひぃ言いながらもこなしていく。

 呼ばれた一年生は、監督のそばに集合した。

「よっし。君たちはすぐにキックの特訓しても大丈夫そうって太鼓判もらったから、遠慮なくやろうか。」

 沢村監督は、まだ息が荒い一年生と対峙した。妙に嬉しそうなのが、ちょっと怖い。

「・・・じゃあ、各自ボール持ってきて。リフティング100回ずつ。両足合わせて200回。途中で落としたらやり直しね。」

 夏南がひゅっと息を止めた。

 リフティングが大の苦手なのである。

「ひゃっかい〜??無理ですぅ・・・」

「利き足だけなら、なんとか。でも、左はちょっと・・・。」

 若葉と郁海がぶつぶつ言うが、監督は聞き入れることはなかった。夏南は黙っていたが、この三人の中で一番下手くそなのは自分であると自覚が有る。また、叱られうかもしれないと思うと、気が重かった。

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