第4話 突破
この年入団してきたのはちょうど11人。
監督の
コーチの田村が、その横に座った。
「何ニタついてんですか、気持ち悪い。」
「気持ち悪いとか言わんでよ。やー、今年も大漁で嬉しくってね。」
茶色に染めた長い髪をお団子にしてまとめている。そのお団子が時折左右に揺れるのは、監督が機嫌良さそうに頭を振るからだ。
その一方で、コーチの田村は神妙な表情だ。
「・・・何人くらい残りますかね。」
グラウンドの片面で色とりどりのユニフォーム姿がわらわらと動き回っている。新入生は色々なチームから来ているので、統制が取れていないのは当たり前だった。
中学の部活ではなく、クラブチームを選んで来てくれた子達だ。
部活に入部するよりは意欲があり、テストをして選ばれた子達だから、まさか試合にならない、ということはないだろう。
半面には、新二年生が、アップしている姿がある。グレーの練習着にしたのは、汚れが目立ちにくいから。保護者の方々の、洗濯の手間を少しでも軽減するため。選手たちがデザインがダサいと言っているが、そんなことは問題ではない。ゴールキーパーだけがやがて卒業する現三年生の桜で、黒い練習着である。
コーチが立ち上がり、笛を鳴らした。
初めての紅白戦。キックオフだ。
「何してくれてんのよっ!!」
「ぎゃああ!ごめん!許してちょんまげ〜!」
「そこはさ〜、外に出さんでもいけるっしょ!」
「おうおうおうおうおう、蹴っちゃうよォォ!!」
「そっち、さんきゅーです!!マークついて!」
「ミスったぁぁ!!フォローよろし!!」
夏南が最初に思ったことは、なんて喧しいチームなんだろうかってことだ。
キーパーだけでなく、フィールドププレイヤー達がみんな試合中大声量で怒鳴っている。内容は、文句だったり謝罪だったり、逆に感謝だったり激励だったりと、様々なのだが。
「はいはいはい〜っ!!お手並み拝見っとぉ!!あたしを止めてみな!!」
ぐいぐいと未冬が中央を突破して、攻撃のラインを上げていく。
そんな彼女に、ディフェンスの夏南は初めて近づいた。
口うるさい未冬と違い、夏南は無言だ。新入生の彼女は、ピッタリと未冬に付いて離れない。ボールを奪うことは出来ないが、その代わりにその身体をぐいぐいと寄せて未冬の行く手を阻む。
「っと・・・!」
未冬の表情が歪んだ。思い通りに方向転換できないのだ。夏南が腰を突きつけて重心をずらそうとしてくる。
「こっち!!未冬!」
「後ろもいけるよ!」
進めなくなった未冬を心配して、近くまで来た味方が声を張る。
未冬が、軽く唇を噛んだ。
まさかの、新入生に邪魔されてゴールへ辿り着けないとか、無い。味方にパスとかも有り得ない。
ちらりと見た
もう一度身体を回して、振り切ろうとするが、相手はまた追いすがってくる。小学生にしては、中々のしつこさだ。ボールは取れなくても、先に行かせまいとする執念がはっきり見えた。
「いいねぇ。そういうの、大好き、さ!!」
二度のフェイントをかけてやっと夏南を振り切った未冬は、そのままゴールまで一直線だ。キーパーの頭の上を抜けたボールは、見事に決まっていた。
「にゃっふぉう!!ないしゅー!!」
「うぇええい!!」
ハイタッチして得点を喜ぶ新二年生達。
それを、放心したかのような顔で見つめる新入生達。
ベンチでは嬉しそうにうんうんと頷く監督とコーチの姿があった。
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