第3話 ふれんず
未冬から見て、目立たない子だったのだ。
おそらく、セレクションなどに行っても、誰の目にも止まらないだろうと思うくらいに、地味でおとなしい選手だと思う。だから、監督があの子を新入団員の一人として決めたのにはちょっと驚いた。
「都筑夏南。背番号41。ディフェンダー。」
肩までの髪を後ろで一つに縛っている、大人しそうな子で、口数も極端に少ない。呼ばれて、短く小さく、
「はい。」
と答えただけだった。
身長は小学生女子にしては高い。160センチを超えている。少年団チームの赤いユニフォームが不格好に見えるほどサイズアウトしていた。服装次第では大人の女性に見えることだろう。安定感の有る体つきで、体幹が強そうだ。
見た目はまあまあだが、パフォーマンスとしては目立ったものが無かったので不服そうに鼻を鳴らす。すると、その横で、同級生チームメイトの早苗や弥生、
クラブチームの新入団員を決めるテストを行ったその日、受験した子の半分が入団となったのだけれど、よもやあの子が入ってくるとは。
ゴールキーパーを務める
「あの子、あたしはいいと思ったんだよね。」
「えー?そう?シュート一つ入れてないのに?」
未冬が思わず聞いてしまった。
すると、桜は監督の方をちらりと見て、訳知り顔で言うのだ。
「一緒にサッカーしてみればわかるんじゃないかな。未冬は、理屈じゃ納得しないから。」
「ちょっと、暗に馬鹿にしてるでしょ。」
「してないしてない。まあ、いいじゃん、明日には早速紅白戦やるんだからさ。そこでわかるでしょ。それに、今年の一年生にはあの子以外にもいい子が結構来たし。楽しみだよね。」
「35番とか、良さそう。足速い!」
「2番も、技術ありそうだよ。トップに出してもいい仕事してくれそう。」
「うんうん、いいねいいね。楽しみだよ。」
などと騒いでいたら後ろからポンポンとメガホンで頭を叩かれた。
「いたっ」
「あたっ」
「やばっ」
「ぐあっ」
慌てて振り返ると、ヘッドコーチの田村さんが仁王立ちしている。
「このど阿呆四天王。あんたら一年生のくせに何お喋りしてんの。はやくライン引いてらっしゃい。」
「はあーい!」
早苗、弥生、未冬、秋穂の四人は、言われて蜘蛛の子を散らすようにその場を去った。一年生は、グラウンドの整備や、練習の準備など、やることがたくさん有る。
その場に居残ったキーパーの桜に、田村が寄っていく。
「あの子らと一緒に出来るのも、あと僅かだね。」
「はい。寂しいですね。ほんと、面白い子達で。・・・秋穂がいたからでしたっけ、ど阿呆四天王とか言われるようになったの。」
くすくすと笑いながら、三年生なのでもうすぐ卒業となる桜が答える。
田村コーチも笑いを浮かべた。
「秋穂が筆頭だったから、アホになったんだよねぇ。四天王なのに、夏がいない、なんて言ってたっけ。ずいぶん喧しい一年生が入ってきたなぁなんて言ってたら、もう年が暮れちゃう。あっという間だ。」
「でもあの子達がいてくれたから、今年は結構な数、試合に勝てました。カテゴリーを上げることが出来ましたし。二年生には悪いことしちゃったかな、と思うけど・・・。」
「大丈夫だよ、二年もちゃんと納得してるんだから。それに、二年生はこれからが本番なんだ。」
「そうですよね。頑張って欲しいです。」
「桜も、高校で頑張るんだよ。」
「ははは・・・その前に、まず合格しないと。」
「え、裏口入学じゃないの?」
「どういう意味ですか!!」
桜以外の三年生は受験勉強に専念するためにほとんど練習には来なくなっていた。キャプテンである桜だけが、時々こうやって練習に来てくれる。桜はいくつかの高校から勧誘の声がかかっていると聞いていたので、とっくに入学が決まっているのかと思っていたのだが、ちゃんと受験をするらしい。
「だってさぁ、桜はちゃんと練習にきてくれるから、もう進路は決定しているものだとばかり・・・。」
「高校でもサッカーは続けますよ。ただ、ちゃんと受験はします。スポーツ推薦の枠には入らないだけです。」
しっかり者のゴールキーパーはコーチの質の悪い冗談をきっぱりと否定した。
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