二度目の旅

「た、た、た、旅に出るだとぉ!?!?!?」

 天人が地上に降り立ってから一夜明けた朝、特殊な力から解放された翁はかぐや姫の言葉に耳を疑った。

「はい。わたくしは桃太郎と旅に出ます」

「どこの馬の骨とも分からないような奴と一緒にさせておくわけにはいかん!」

「よだれを垂らしてボーっとしてたマッチョじいに、天人から姫を守るのは無理だ」

 桃太郎は勝ち誇ったように朝食の味噌汁をすする。


「ぐぬぬぬっ……!」

「姫、飯食ったら月に出発する準備だ。昼までには出発したいからそのつもりでな」

「残念ですが今のわたくしに月に行く力はありません」

「へっ?」

「天人の手助けがなければ不可能です」

「おいおいおい、先に言ってくれよ。ぶっ殺しちまったじゃねぇか」

「わたくしの声など聞こえていなかったのでは?」

 図星を突かれて桃太郎は味噌汁をふき出しそうになる。

「天人たちは必ずやわたくしを連れ戻しに来ます」

「なんだ、また来るなら別にいいか」

「今度は大量の天人を引きつれてやってくるでしょう」

「ふーん、俺を警戒してる──っていうか、俺を殺すためか」

「……はい」

「そんな暗い顔するなって。あんな奴等幾ら束になろうが敵じゃねぇよ」

 百人力とはこのことで、かぐや姫には桃太郎が頼もしく見えた。


「月と地球を結ぶ道が開かれるのは満月の日に限ります」

「ってことはかなり時間があるな。それまでは暇か……」

「いいえ。仲間を探すのです」

「仲間?」

「わたくしや桃太郎のように月の国の民が他にもいるはずです」

 旅の目的が見つかると桃太郎のテンションも一気に上昇する。

「それじゃあさっそく行こうぜ!」


「待て、わしも同行させてもらうぞ!」


「はぁっ!?」

「わしの可愛い娘を狙う輩は多く存在する。天人以外が相手なら遅れは取らん」

 二人きりのムフフな旅の予定は翁によって無残に砕け散った。

「オレも行くぜ」

「おう、気を付けて帰れよ」

「ちげぇよ!! 旅だよ、たーびー!」

 猿も加わったことで桃太郎は頭を抱える。

「お前旅なんてうんざりじゃなかったのかよ!」

「うるせぇ! オレのこと殺そうとした奴に拒否権なんてねぇんだよ! それに今度はこんな可愛い姫様が一緒なんだ。バカと犬とキジの旅よりも1000倍楽しみだぜ」

 負い目がある分、桃太郎は強く出られない。

 頼みの綱のかぐや姫も「護衛は多い方が頼もしいです」と乗り気なので、仕方なく折れた。


(どうせマッチョじいと猿は月にこれない。それまで耐えるか)

 そう考えると桃太郎の気持ちは一気に楽になった。

 味噌汁とごはんをかきこんで、いざゆかんと立ち上がる。

「最初の目的地はどこだ!」

「西の都にウリから生まれた瓜子姫がいると聞いたことがあります」

「桃、竹ときて次は瓜か。楽しそうじゃねぇか!」

 新たな姫の存在に俄然やる気になる桃太郎。

 まだ見ぬ西の都へ、まだ見ぬ仲間を求めて旅立つのだった。

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桃太郎、二度目の旅に出る 二条颯太 @super_pokoteng

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