第7話 ここは楽しいケモケモランド!
「え……? えっと、なにがおかしいの? コンちゃん?」
「だってリス美はエゾリスでしょ? エゾリスは寒さに強い動物だもん。本当なら柴犬のシバタよりも寒いところに住んでるんだよ。そんなリス美が寒いから羊毛を欲しがるなんておかしいよ」
あたしがドラムに聞いたのはこのことだ。
エゾリスが寒がりなのかどうか。
答えはノーだった。
「そ、それは……」
「それにもうひとつおかしいところがあるの」
「おかしいところって……?」
「リス美の毛皮……なんで縞模様なの?」
「え……いや、それは……」
「本来エゾリスには縞模様がない。でもリス美にはある。てことはリス美、あなたって本当はエゾリスじゃなくてシマリスなんじゃないの?」
「……そうよ」
リス美は認めた。
「だとするならここでもう新しい疑問が浮上するの」
「新しい疑問とは?」
最初は不機嫌そうに聞いていたヴォルフさんも、いまはちゃんとあたしの話を聞いてくれている。
「冬眠だよ。エゾリスは冬眠しないけど、シマリスは冬眠するの。なのにシマリスのリス美はいまこうやって起きてる。本当ならモリさんみたいに眠くて仕方ないはずなのに。ねえリス美。あなた、どうして起きているの? 厚着してまで起きているのはなぜ?」
「そ、それは……それは……わたし……」
みんなの視線がリス美に注がれる。
小さな小さな彼女はさらに体を縮めて体を震わせている。
「おいらのせいなんだ……」
あたしたちがリス美の答えを待っていると、突如フク爺の家の奥からタヌ男が出てきた。
「タヌ男! もう大丈夫なの⁉」
あたしが聞くと、タヌ男は葉っぱが巻かれた首をさすりながら「へへへ」と笑った。
「タヌ男のせいって、どういうことなんだぜ?」
「実はおいらとリス美は……恋獣なんだ……」
「「「「……は?」」」」
突然の爆弾発言に、みんな固まってしまった。
あのヴォルフさんまで口をあんぐり開けて呆然としている。
「おいら、リス美が本当は冬眠するって知らなくて……それで冬もいっしょにすごそうって言っちゃったんだ……だからリス美は無理やり起きてたんだと思う……」
「そうだったの……」
「まてまてまて! だとしたらなんでリス美はこ、こここ、恋獣のタヌ男の首を噛み切ったんだ⁉ そんなのおかしいじゃないか!」
シバタの質問にだれもが頷いた。
なんでこいつこんなに興奮してるんだろう?
「それはわたしのせいなの……無理に起きていたせいで、毎日頭が痛くて……時々幻聴も聞こえて……それで、気がついたらタヌ男の首を……ぐす……。わたし怖くて……自分がやったなんて信じられなくて! それで、それで……うぅ……」
つまりリス美は無理やり起きていたことで過剰なストレスにさらされ、結果的に錯乱状態になってタヌ男を攻撃してしまったのだ。
ある意味、事故だったのかもしれない。
「違うんだリス美! 悪いのはおいらだよ! おいらがリス美のこと全然わかってなかったせいなんだ!」
「違うの! 悪いのはわたしなの! 冬眠してる間に愛想をつかされちゃうって思って、怖くて本当のことをいえなかったわたしのせいなのよ!」
「愛想がつきるはずないじゃないか!」
タヌ男はリス美にかけより、勢いよく抱きしめた。
「タヌ男……?」
「おいらが君に愛想をつかすなんてそんなことあるわけないじゃないか! いつまでだって君のことを想い続けるよ! そして春になって、またあえるその日をずっとずっと待ち続けるよ!」
「タヌ男……タヌ……男ぉ……うぅ、うわああああああん!」
二匹は抱きしめあってわんわん泣いた。
これにて事件は解決。あたしもすっきり。
微笑ましい気持ちになっていると、頭の上に筋張った手が置かれた。
「よくやったな、コン」
「うん、ありがとうフク爺。……ねえフク爺」
「なんじゃ?」
「知識を得ると、たしかに純粋じゃなくなるかもしれない」
実際、あたしは今回リス美の発言を誘導した。
普段の悪戯とは違う、ちょっとズルい方法で。
「……うむ」
「でもね、あたし思うんだ。お互いのことを知るのって、優しさなんじゃないかな……って」
あたしは抱きしめあう二匹を見ていった。
「……かもしれんな」
フク爺は小さく笑って、あたしもつられて微笑んだ。
ここは楽しいケモケモランド。
ここのみんなはとっても仲良し。
時々事件が起こるけど、でもそれはきっと単なるすれ違い。
この世界では、肉食獣も草食獣も、みんなみんな手を取り合って生きてるの!
「さーて、事件も解決したことだし、こんどはどんな悪戯をしよっかな?」
「やれやれ……こりない奴じゃのう」
「えへへ!」
ここは楽しいケモケモランド!~血まみれ狸と銀世界の謎~ 超新星 小石 @koishi10987784
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