ひとでなし

 私は、親が嫌いでした。私が悪いわけではありません。私の肉体を、精神をいたぶった親が悪いのです。私は産まれた瞬間から犠牲者でした。

 子どもの頃は、幸せだったと思います。なぜなら、肉体と、精神がいたぶられることは、私が悪いのであり、躾とは普通こういうものだと思っていたからです。機嫌が悪ければ機嫌を伺い、適切な言葉を選んで、相手を持ち上げる。これが、子どもに課される義務であり、責務だと思っていました。しかし、現実は違いました。

 幸せな家族は、私のようにいたぶられることなく、また親の方が子どもの機嫌を伺い、持ち上げるのが普通でした。私はその瞬間、私が壊れた気がしました。

 私はただの奴隷でしかありませんでした。それに気が付いたのは、高校生のときでした。私は酷く、親を憎く思うようになりました。しかし、親にとって私はまだ人間ではなく、奴隷のままでした。

 私は抵抗しました。暴力には暴力をもって返しました。(私は昔、半ば強制的に親に空手を習わされていため、そのとき培った能力が役に立ったのだと思います。ただ体格も成長してきていたところだったので、それもあったのかもしれません。)

 すると、暴力はこれっきり止みました。私の中で革命が起きた瞬間でした。

 しかし、私の革命は、実は大したことなく、むしろ失敗に終わったとすら思われました。なぜなら、今まで肉体と精神の両方にリソースを割いていたため、どちらかが過激化することはありませんでした。しかし、肉体をいたぶりにくくなったとき、全ての暴力が精神へといってしまったのです。

 私は絶望しました。もう、泣くことすらできませんでした。ただ死にたい。そう思うことしかできませんでした。

 結局、私はなんのために産まれてきたのでしょうか。それすらも、もう分からないのです。分からなくなってしまったのです。

 高校生の頃の私には、夢がありました。

 それは偉大な作家となり、人々を喜ばせることでした。私は、誰かの希望になりたかったのです。誰かを救いたかったのです。誰かを、笑顔にしたかったのです。

 私はそれを親に話しました。一生懸命に、真剣に、熱心に、話しました。すると、親は私を笑ってくれました。

 背中を押したのではありません。私を絶望へと突き落としたのです。私は小説家というよりは、むしろ、道化師の才能があるようでした。

 そのときふと、私は幼い頃のことを思い出しました。

 幼い頃の私は、科学者を目指していました。科学の力で、誰かを救いたいと思いました。

 親は私を笑いました。幼い私は、夢を失いました。

 中学生の頃、私にはまた夢ができました。教師になりたいと思ったのです。そして、生徒に希望を与えたいと思いました。

 親は私を笑いました。中学生の私は、夢を失いました。

 そして高校生になり、私はまた、夢を失いました。もう、私は何も見ることができません。私はまるで、絶望に恋をしてしまったようでした。

 大学生となった今も、私は絶望に恋い焦がれ、ただ死を追い求めています。私の中で歪んだ心は、もう、元には戻らなくなってしまいました。

 それは悲しいことでしたが、今となっては、それも好ましいことのように思います。

 なぜなら、私は道化師にしかなれないからです。

 道化師として、私のこの絶望を、皆様に娯楽として提供することしか、もう私にできることは残されてないのです。

 ひとでなし。

 結局、私は道化師化け物にしかなることができませんでした。

 もう、私は普通の人間には戻れないでしょう。ただそれでも、私は皆様へ、少しばかりの娯楽を届けたいと思っています。

 それが、今の私が過去の私のためにできる、ただ唯一の救いだからです。

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ひとでなし Aoi人 @myonkyouzyu

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