被害者

 私は小さい頃からずっと、優しくあろうと努力してきました。

 親の言うことは素直に聞き入れ、親の望む言葉を選んで喋り、そうやって、私を献上しながら生きてきました。しかし、それは私にとって、私がとんでもない被害者になることと同じでした。

 親が望むために、周りの人が望むために、私は自分に嘘を塗りたくり、その嘘を守るために、また嘘を重ね塗りして、人を喜ばせようとしてきました。ただ嘘というものは、いくら重ねても薄く、もろい物なのです。それを必死で守るために、それが無駄だと知りながら、せっせと、汚い塗り絵に興じていました。

 ただやはり、いつかは精神塗る材料がなくなって、嘘は剥がれ落ちていくのです。それは私にとって、耐え難い苦痛でした。

 ただでさえ、精神がなくなり、枯れきった目から、出もしない涙が、もうどこにもない出口を求める上に、私の(どこまでも無駄ではあるが)努力が全て崩れてしまうのです。私は我慢強い人間でしたが、とうとう我慢のできない化け物に成り果ててしまいました。

 どうしてこうなってしまったのか、私にははっきりと分かっています。ただ、いくら分かっていても、それは私を否定することになるのであり、私はそれが何よりも恐ろしいのです。

 私は、ただのかわいそうな被害者であること以外の、なんでもありません。

 ただ、この話のオチに、加害者なんてものは存在しません。なぜなら、それが誰なのか、私しか知らないからです。そしてそれを、私が言ってしまえば、それは私が私を壊すことと同じです。

 このような無駄で、くだらない話をしたところで、何かが上手くいくわけでもなければ、だれかがすくわれるわけでも、何より、私自身が救われることでもありません。

 ただ、私は私に、言い訳をしたいだけなのです。私が被害者であると、嘘をつきたいだけなのです。私はいつまで経っても、醜い被害者なのです。

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