前編 骨接ぎ屋、十蔵

勝手口を出ればすぐに裏山で近所なのは万屋さんくらいで、あとは田んぼや畑ばっかりな所。町に行くのには少し歩く様だ。


オイラは歩くのは苦じゃないし、元々オイラは咎人……他人とは一線を引いた生活が丁度良いのかもしれねぇ……


オイラは薬草も山菜もある程度取った所で一服。服から煙管を取り出して葉っぱを詰めて火種を起こして煙管に入れて一息。


裏山から見えるのどかな景色を見ながら黄昏る。


「8年前……本当はオイラはこの世に居なかったんだけどな……神様、仏様も酷いもんだぜ……」



8年前……オイラと万屋さん。つまり三厳は立派な御役所勤めをしていた。ちょうど、この年は町は飢餓や飢饉、そして疫病まで流行っていた。


そして農民も米が凶作にも関わらず俺達、役人は重い税を農民に払わそうとしていた。


オイラと三厳は上役から農民からの税の催促に行こうと村に出向いた。が、その有り様は悲惨な物で一種の罪悪感を抱いた程だ。


農民達の顔は細く痩せこけ、赤ん坊は腹を空かして泣いているが母親は栄養不足で乳も出ない。動ける者は数少なく生気も感じられない。


農民達はオイラと三厳に頭を地面にのめり込む勢いで泣きながら下げるばかり。こんなに苦しんで居るのにも関わらずだ。


オイラ達は自分達の生活の為に貧困で苦しんでいる農民やその子供に赤ん坊に年寄りから大切な大切な米を奪い取る形にしようとしている。


オイラと三厳は心を鬼にして税を取ろうとすれば、どんなに楽だっただろう。だけどオイラ達にはそんな事は出来なかった。


出来るはずもない。だからオイラ達は上役に直談判をした。武士としてでなく人として、意地も誇りも何もかも捨てて上役に頭を下げた。


今の農民がどんなに苦しんでいるか、食うものに困り小さな赤ん坊までもが亡くなっていく現状を……


三厳と一緒に必死で上役を説得して税の免除の許可を得た……はずだった。



だが……その村は数日後には焼け野原になっていた。事の顛末を聞いたオイラと三厳は急いで馬を出して村に出向いた。


オイラ達が出向いた頃には、村は焼け野原ですでに後の祭だった。生存者は誰1人として居なかった。亡骸はオイラ達が役人で1人1人に地面に穴を掘って埋めてやった。


オイラと三厳だけは己の無力さにうちひしがれながら涙を流して……そっと線香を焚いて村を後にした。


それから数日。オイラと三厳は夜更けまで書き物の仕事を終えてから役所を後にしようと歩いて居ると上役と他の上役との笑い声が聴こえてきた。


『全く。税が払えないなら焼け野原にしろとは人が悪い。』


『あの十蔵と三厳が必死で頭を下げて税の免除をと言った時は焦ったが……要求を飲んだふりをして焼け野原にすれば無かった事になる。まぁまぁ飲みなされ。』


『お主との交わす酒は不味くて敵いませぬ。ガハハハハッ!!』


オイラはその会話で頭の堪忍袋が切れたのが分かった。それも三厳も一緒だった。だが不思議なもので本当に堪忍袋が切れると……


怒り狂うかと思いきや……頭は不思議なもので落ち着いていて……冴えてた。


オイラ達はすぐに襖を開けると刀を抜き……上役を切りつける。


そして三厳は1人の上役に心の臓に刃を突き刺すと惨い顔をしながら息絶えた……


もう1人の上役は『ヒィヒィ』と一人前の武士が敵に背中を向ける愚行を行い這いつくばりながら逃げるが……


オイラは無言で斬り付け……息絶えた。


『オイラ達は……立派な罪人だな。』


『……だが、農民達の無念は晴らせた。それだけで……それだけでワッシは……』


『もう……何も言わなくて良い。三厳……』


オイラはそっと三厳の肩に手を置くと数十人の足音が俺達に迫ってきた。


それは……今まで一緒に仕事をした仲間。一緒に苦労しながら役所に勤めて一緒に釜の飯を食った仲間。



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