前編 骨接ぎ屋、十蔵

「あんたですかぃ?圭史郎さんよ。」


「万屋さん。客人に失礼ですよ。」


「ふん。クソ役人。」


万屋さんは自分が死ぬ覚悟で咎人になったにも関わらず、その死に場所を奪った圭史郎様に少なくても一種の恨みを持っている。


「相変わらず俺の事が嫌いなようだな万屋。」


「ったりめぇだろが?!毎回、毎回よ!十蔵に外道を斬らせる様な依頼をばかり!今日は何の様だ?!」


「まぁまぁ。万屋さん。オイラは圭史郎様に生かされ何かの役に立てたいと思って殺ってることだ。だから落ち着いて下さい。」


「だいたい十蔵が咎人になったのはコイツが上役の不正を……」


「三厳。少し落ち着けって言ってんだろ?」


「……ちっ!」


三厳を黙らせた事でヤレヤレと言った顔の様子で圭史郎様が着物の懐から紙で炭で描かれた顔をオイラに差し出す。


「この人は?」


「実は俺にも分からん。」


「はい?」


オイラは圭史郎様でさえ分からない名前の顔を見せられで分からない゙って言う答えに目を丸くする。


「いや、性格に言うと得体の知れない奴なんだよ。」


「得体が知れないですか?」


「あぁ……ここ、ひと月の間に残忍な事件が起きていてな。」


圭史郎様の話を纏めるとこうだ。ここ、ひと月の間に骸さんの死に顔が心底、恐怖に震えあがった顔をして川に投げ捨てられている。


その共通の事が首筋に噛み付かれた歯形があり喉元を噛み千切られている事件。


そして昨晩にもその事件を目撃したと言う人から話を聞いて顔も見たとの証言。


目撃者の証言を元に描いた絵が圭史郎様が今、オイラに見せている絵。


獣の様に目が鋭く、鼻が高く、髪の色は白銀で雪の様な白い肌に全身が黒付くめ。何よりも昔鎖国になる前に居た、南蛮人みたいな服装らしい。


「なるほど……今、居るこの日本に白銀はそうそう居ないでしょうから、すぐに見付かると思います。」



「そうだと思うだろ?だが役所も中々、下手人が捕まらない事に業を煮やして躍起になっている。」


「そうですか……それでオイラの所に。」


「そんな所だ。分かってるのは奴が現れるのは夜で月が見えている時だけだ。」


「なんで月が関係しているのですか?」


「それはちょっと分からないが、必ず、その骸が現れるのは、その晩は月が雲に隠れず見えている時だ。」


「……なるほど。」


「じゃあ、その下手人に関しては頼んだ。俺はそろそろ行かないとだから。宜しく頼むぜ。それと取り敢えずは前金だ。」


「はい。分かりました圭史郎様。」


圭史郎様は前金として金6両を置いて平屋から出ていくと万屋さんは不貞腐れた顔をしていた。


「万屋さん。朝飯でも食いましょ。」


「ふん!」


これは機嫌が相当悪い。それなら……


「今日の夜は軽く飲みに行きましょ。オイラが代金を持つからさ。」


「……分かった。」


朝飯食ってから万屋さんの機嫌はだいぶ治った事だしオイラは薬草を取りに背中に籠を背負う。


「万屋さん。誰か来ましたらオイラは裏山に居ると伝えて下さいね。」


「へいへーい。」


万屋さんは墨汁と筆を片手に水墨画を描いている。まぁ、万屋さんの絵は味があると評判ですから中々、良い値段で売れる見たいです。


オイラは勝手口から出て左手には杖を持ち歩きながら裏山えと向かう。薬草は湿布を作る時に必要なものでしてね。


痛みを和らいでくれるのですよ。湿布は綿に水を染み込ませて、薬草を刷り込んだ物を包帯で巻いてたりします。


オイラは骨接ぎ屋。骨折、脱臼に打ち身を治すのが仕事。あと鍼や御灸とかで治療したりしますよ。


杖を就いて裏山を歩くと良い薬草を見付けては籠に入れて、たまに食える山菜があれば天麩羅や和え物として食えるので籠の中に入れる。


オイラの平屋は丘の上に建っていて部屋は殆ど畳で敷かれている。


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