骨接ぎ屋 十蔵
藤田吾郎
前編 骨接ぎ屋、十蔵
朝、オイラは雀の鳴き声で目を覚ます。オイラは目を擦りながら外に出ると眩しいお日さんがオイラの目に焼き付く。
「今日も元気に仕事ですねぃ。」
オイラは大きく欠伸をして井戸の水で顔を洗い朝食の準備にする。何かありましたっけな?平屋に入り朝飯の材料を見ると米とぬか漬けと塩と味噌と……
「ありゃりゃ……昨日、買い忘れてしまいましたか……今日こそは買いに行かないと。」
取り敢えず今は有るもので済まそうと思い米を洗い飯を炊くことにする。火を起こそうとしていると誰か来たようだ。
「おーい!骨接ぎの大将!今日は良いメザシを貰ったぜ!」
「おぉ、万屋さんですか。いやいや、ちょうど食材が無くて困ってる所でして……」
「なんなら丁度良い!朝飯食わせて骨接ぎの大将。」
「ま、またですかぃ?万屋さん。今日で5日連続ですよ?」
「いやいや~…中々、依頼が来なくてねぇ。それに骨接ぎの大将みたいに毎日毎日と稼いでは居ないからさぁ~……」
「てか万屋さんは金が入るとすぐに賭場に使うのがイケないんじゃねぇのですかぃ?」
「こ、これは……アハハハ。」
「まぁ……折角ですから一緒に食べましょう。」
この人はオイラの旧友の万屋さん。昔から、あんな感じのお調子ものでオナゴみたいな顔立ちですけど怒らせたら侠客顔負けの喧嘩っぷり。
それに本当に何でも出来る人でしてね。髷結いや芸者の三味線、水墨画に浮世絵に春画とか出来るから万屋をやっている人。
だけど浪費癖があって金が入ると賭場か芸者遊びに行ってしまうのが欠点なんですよ。
「大将、大将!早くメザシ!メザシ!」
「ちょっと待っててください。今、炭火焼きをしますから。」
「ん~…ワッシは腹が減って仕方ないよ。」
「いやはや。」
やはり昔からの付き合いのせいか全く嫌な気分にもなりませんし、万屋さんがこうなのも今に始まったワケでもないので……
「まぁ、もう少し時間が掛かりそうですから将棋でも打ちましょう。」
「おっ!今日こそは負けねぇぞ大将!」
そんな事でオイラと万屋さんは飯が炊けるまで将棋を打つことにする。今の所は4日連続でオイラが勝ってますけど。
「王手。」
「ま、待った……」
「待ったなしです。」
「うっ……う~む。ま、参った。」
万屋さんは飛車、角落ちで更には詰まれて今日もオイラの勝ちのようですね。
「あぁ~…また負けた。」
万屋さんは頭をガシガシと掻きながら本当に悔しそうな顔をしながら言う。そういう悔しさを仕事でも出来れば良いと思うんですよね。
オイラは釜が沸騰してきたから火を弱くして釜の中で蒸らす事にして、メザシも良い具合に焼けてきたので皿に盛る。
壺からぬか漬けにした胡瓜と大根と茄子を取り出して適当な大きさに包丁で切り皿に盛ってから蒸らしも終わり釜から白米を茶碗に盛り頂く。
「ん~!やっぱり大将の作る飯は上手いな!」
「まぁ独り身が長いものでね。嫌でも出来る様になりましたよ。」
「だよな……十蔵。」
「いきなり本名でなんだ?三厳(みつよし)。」
万屋さんはオイラの本名で呼ぶ。オイラの本名は十蔵。そして万屋さんの名前は三厳。まぁ……お互いに訳ありでしてね。
「もう8年なんだな。ワッシ達が咎人になって……」
「そうだな。本当だったら打ち首で御家断絶、良くても切腹だったのに……」
「今のワッシらが生きているのはクソ役人のお陰なんだよな。」
「そうですな。」
「おっ!俺の話か?骨接ぎ屋に万屋。」
すると勝手口から顔を覗く、お役人様の格好をした初老の男性が顔を出す。冴島 圭史郎(さえじま けいしろう)様だ。
咎人であるオイラや三厳が生きていられるのは、この御方のお陰であり、それと同時に゙武士゙であるオイラ達の死に場所を奪った人でもある。
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