理性は羅針盤、情熱は疾風
超新星 小石
第1話 羅針盤と疾風
バットが快音を鳴らす六月のグラウンド。
俺の投げたボールは湿った風にも負けず遥かネットの向こう側まで運ばれた。
「おい、風祭。ちょっとこい」
監督に呼ばれるのも無理はない。
練習とはいえ打たれすぎだ。
監督はやれ球速だけの馬鹿だとか好きなところに投げてるだけだとか好き放題喚いてる。
額から流れる汗が目に入ってうるさい。
帽子の中も蒸れて気持ち悪い。
はいはい頷きながらこのくだらない時間が早く終われと願っていたら、キャッチャーの針池が駆け寄ってきていきなり頭を下げた。
「監督。俺のコースが悪かったせいなんです。さーせんっした!」
……なんでお前が謝んだよ。投げたのは俺だろ。
「練習だからって気を抜くなよお前ら!」
「「うっす!」」
グラウンドに戻る途中、俺は針池にいってやった。
「なんでお前まで怒られに来たんだよ」
すると針池が立ち止まり、俺もつられて足を止めた。
針池は眼鏡越しにまっすぐ俺を見つめてくる。
「なぁ風祭。お前、アレキサンダー・ホープって知ってるか?」
「……知らね。誰それ。ブラックサンダーの親戚?」
俺が尋ねると、針池はすぅ、と息を吸った。
「私たちが航海している人生と言う大きな海では、理性は羅針盤、情熱は疾風である!」
「……はぁ?」
「ってわけだ。早く戻らないとまたどやされるぞ」
そういって針池はキャッチャーミットで俺の胸を叩き、グラウンドへと走っていった。
「んだよそれ……。わけわかんねー」
わけわかんねーけど……なぜか、心臓がドキドキしていた。
再びマウンドに立ち、針山を見る。
バッターは左。
コースは内角低め。
サインはスライダー。
おいおい、俺の専売特許は剛速球のストレートだぜ?
そんな思いで針山を見つめるが、あいつはどこまでもまっすぐな目で見つめ返してくる。
「……へっ」
首を左右に振ろうかと思ったが、なぜか笑いが込み上げてきてやめた。
お前が理性で羅針盤?
なら俺は情熱で疾風?
俺の行く先はお前が決めるっていうのかよ。
俺はグローブの中で白球を握りなおし、振りかぶる。
だったら導いてくれよ――――夢の舞台に!
理性は羅針盤、情熱は疾風 超新星 小石 @koishi10987784
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