第4話 林

 翌日、林がオフィスにこないので俺は佐藤さんとともに居住区にある林の部屋を訪れた。


「せんぱーい。起きてますかー? せんぱーい?」


 容赦なく扉を叩く佐藤さん。


「……ダメだ、電話もつながらない」


 俺はいくらコールしても応答しないスマホを切って、白衣のポケットにしまった。


「あれ? 鍵、あいてますよ?」

「え?」


 佐藤さんのいう通り、林の部屋の鍵は開いていた。


「おーい、林?」


 申し訳ないとおもいつつも室内に足を踏み入れる。

 部屋の中には大量のゴミ袋が散乱していた。カーテンは締め切られており薄暗い。

 耳を済ませると水の流れる音が聞こえた。


「……風呂、か?」

「わたしは外で待機してますね」


 それは確認してこいって意味なのかい?

 心の中で愚痴りつつも脱衣所の扉を開ける。

 すりガラスの向こうの浴室からはっきりとシャワーの音が聞こえてきた。


「林? いるのか?」


 声をかけても返事がない。


「……おい、林? 入るぞ?」


 浴室のドアを開いて中に入る。

 すると真っ赤な液体で満たされた浴槽に使っている林の姿が目に入った。


「林⁉ おいしっかりしろ! 林!」


 体をゆすってみるも反応はない。


「主任? どうかしたんですか?」

「来るな! 急いで救護係に連絡してくれ!」

「え、ええと?」

「はやく!」

「は、はい!」


 首筋で脈を確認するも、すでに彼の心臓は止まっていた。


 浴槽に沈んだ手首からは、今なお真っ赤な血が流れ続けている。

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