第3話 娘
一日の仕事を終えて居住区にある我が家へと帰宅した。
ここは太平洋置きに位置する離島。なので島内に居住区や商業区など生活に必要な最低限の設備が完備されている。
この島そのものがひとつの社会を形成しているのだ。
「パパ、お帰りなさい」
玄関を開けると娘の
エプロンをつけており、部屋の奥から美味しそうな香りが漂ってくる。
「ただいま花梨」
「今日はビーフシチューを作ったんだよ」
「そうか。いつも悪いな」
「ううん、お料理作るの好きだから」
「そうか」
俺は花梨に微笑みかける。
妻を早々に亡くした俺にとって、娘だけが生きる理由だ。
「ねえ、パパ。ルイスは元気?」
「ルイス? どうして?」
「あのね、わたしこの前ね、ルイスにクッキーをあげたの。そしたらルイスね、お礼にピアノを弾いてくれたんだよ。だからね、パパ。ルイスに酷いことしないであげてね?」
無邪気に笑う花梨。
けれど俺の脳裏に浮かんだのは、自分の手首を切りながら狂気に満ちた笑顔を浮かべるあの猿の顔だった。
「……大丈夫だよ。パパたちはお猿さんたちが大好きだからね」
そういって花梨の長い黒髪を撫でた。
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