第4話 レイナとイヴリル
「いやーいいお湯だったわ」
下着姿のまま首にタオルを巻いたレイナがリビングに入るやいなや冷蔵庫に直行し、中に入っていた牛乳をパックのまま飲み始めた。
「今日もお疲れ様ですレイナちゃん」
部屋の一角にあるカーテンの向こうから声が聞こえた。
カーテンに映っているシルエットは大量の機材らしき物と、椅子に座った少女だ。
「その子のこと、なにかわかった?」
「どうも第一世代のアンドロイドのようですね。汎用型ではなく個人製作のいわゆるワンオフというやつです。名前は……スズというようですね」
「なんでそんなものが病院に?」
「恐らく入院患者のメンタルヘルスロボットだったのではないでしょうか。残念ながらいまは言語システムが故障しているようで話せないみたいですけど……」
「ふーん……リスクは?」
「それも大丈夫です。完全なスタンドアローン型のようなので姉妹(・・)のように暴走することはありません」
「そ」
レイナはカーテンへと近づき勢いよく開いた。
そこには首に配線をつなげられた少女と数台のサーバーに囲まれたモニタが置かれているだけだった。
「じゃあこの子もあんたと同じで安全なアンドロイドってわけね」
「そういうことですね。残念ながらこの子は専用AIしか使えそうにないのでわたくしの素体にはなりませんが」
サーバーに接続されたスピーカーからイヴリルの声が聞こえた。
彼女には体がない。もともとレイナの家の家政婦アンドロイドだった彼女は、世界中の機械が暴走した審判の日に体を捨てて電脳空間に精神を移したのだ。
「ま、それはしゃーないわね。このご時世、まともなアンドロイドが生き残ってるだけでも貴重だもの」
「ですね。たいていの機械は人間を抹殺するようにプログラムが書き換えられてしまってますし……ただ、本音をいうとわたくしもはやいところ自由に動きたいです」
「あら、あなたってどちらかといえばインドア派じゃなかったかしら? 世界が平和だったころは、コネクタに砂がつまりますーとかいってたじゃない」
「これいじょう、レイナちゃんを危険な場所にいかせたくないんですよ」
「ふーん……なら、はやく見つけてあげないとね。あたしも、親友がパソコンの中にいるだなんてつまらないもの」
「レイナちゃん……前々から思ってましたけどAIしか友達がいないだなんて可哀そう……」
ぴきり、とレイナの額に青筋が浮かんだ。
「あははは! ねえイヴリル牛乳飲む? コネクタに流し込んであげようか?」
「わああ! ごめんなさいごめんなさいやめてくださいー!」
「遠慮しなくていいのよー?」
「いやああああ!」
騒がしい二人を無表情で見つめるスズ。
彼女の後ろで巨大猫のミルクが「くああ」、とあくびをして、彼女はそっと頭を撫でたのだった。
滅亡世界のスカベンジャー 超新星 小石 @koishi10987784
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