第5話 未知との出会い

「え?」

目を開けるとゲームの中だった。

無事にダイブできたことに安堵するも束の間、辺りの景色に絶句してしまった。

壁や床、家具などが破壊されており、まともに歩くことも難しい。

早く修復しなければ天井から瓦礫も降ってきそうなほどだ。

驚いているのは三人も同じようで言葉を失っている。

「このゲーム、『toxic dolls』は人形の館を舞台としたホラーゲームと聞いていたが、 この荒廃した様子は演出ではなさそうだな」

セッドが自身のバブルミラーで事前調査の結果を見ながら言う。

「とにかく先に進むためにも早く修理しなきゃ。

エリス、さっそくだけど頼める?崩壊が酷い場所にスプライト補完をお願い。

その上からの修復なら私たちでも対応できるから」

ナージュは既にフリーザーを起動しており、準備万端のようだ。

「了解!」

そして私はフリーザーを右手に持って胸の前で腕をクロスして構え、深呼吸して呟いた。

「ドローイング」


(ミニゲームが入る)


大きな穴が開いていた床に、池の水が徐々に凍っていくようにしてスプライトが現れた。

そのスプライト同士を繋いで、そこに元々あったであろうイメージを呼び出す。

床や天井、壁のイメージを追加して準備は完了。

最後にただの画像だった家具を具現化して終了だ。

「よし、壊れ方が酷かったところは一通り直ったかな。

あとは奥に進んでいって、細かい箇所を手直しするくらい?」

私はほっと一息ついて、事前に送られていた資料に目を落とす。

ちょうどその時、三人も戻ってきた。

「さすがはエリス、仕事が早いね!この辺りの細かい装飾も復元できたよ。」

ヴィアは自身が直した所を指さして満足そうに言った。

「ありがとう、先輩たちが手伝ってくれたお陰だよ。

そうだ、確かこの奥に……」

「静かに!」セッドが突然会話を遮った。

「奥の方で何か音がしなかったか?」

最初は遠くの直しきれていない、何かが壊れた音かと思った。

しかし、その中に機械が動いているような低音が混じっているのをヴィアは聞き逃さなかった。

彼は素早くフリーザーを起動した。

「すぐに調べます!……約一キロ先で四体の人工生命体の起動音を感知。

これは、既に戦闘モードに切り替わっている!?」

ーーゴロゴロ、ガシャーン!

すぐ近くに雷が落ちた、その時の音がした。

その音が確実に近づいてきている。

「いくら緊急事態とはいえ、既に人工生命体が動き始めているのは明らかに異常だ。

皆、フリーザーを構えて。一先ずあの四体をデバッグするんだ」

そう言ってセッドは三人より一歩前に立った。

「はい!」

彼に続いてヴィアが横に並び、私とナージュは二人の後ろにつく。

遠くから近づいてくる四体の姿が徐々に鮮明になる。

「……ヲ、ヨコセエェ!」

スライムに似ているが頭はヒトの形をしている、何とも不気味な姿だ。

それが突然、こちらに向かって火を放ってきた。

セッドがすぐに反応し、氷のバリケードを一瞬で出現させた。

「今のうちにデバッグするんだ!」

「了解!」


(戦闘を行う)


私は特大の雪だるまを作ってその中に一度閉じ込めてから、一緒に消滅させる。

ヴィアはフリーザーをギターに変えて弾く。

その時に生まれた音符が炎でできたコウモリへと変化し、二体を攻撃して炎で包み込んだ。

ナージュは草花を敵の周りを囲むように出現させる。

デバッグ効果のある特殊な香りを吸い込むことで消滅する。

このようにして、私たちはそれぞれの得意技で四体をデバッグすることに成功した。



「よくやった、さすがの速さだな。

……それにしてもこの攻撃性。一体何が起こっているんだ?」

セッドが考え始めた時、彼のバブルミラーが光った。

『本部からC班へ、緊張連絡だ。

現在本部のシステムが何者かに攻撃されており、ダイブシステムが起動不可能となっている。

今後さらなる不具合が起こる可能性を考慮して緊急脱出を要請する。

至急、本部へ帰還せよ』

「了解。……皆、聞こえていたな?

一度ダイブ地点へ戻ろう、そこに緊急脱出装置があるはずだ」

セッドはくるりと向きを変えて進み始めた。

私たちも後に続く。

「それにしても、さっきのバグはなんだったの?

先輩たちでもこの現象は初めてなんだよね」

隣で並んで歩いているヴィアに視線を向ける。

「そうだね。EC、エネミーコントロール部が俺たちの任務に支障がでないように制限をかけている間は起動しない。

今までの経験だけだと原因がつかめなさそうだよ。

とにかく解析班に……ってうわ!?」

ビュン!と音が聞こえそうな速さで、突然私たちの目の前を真っ暗な物体が飛んで行った。

「何あれ!あれも人工生命体、だよね?」

ナージュが視線で追いながら指さす。

「おそらくそうだ、とにかく追いかけて捕まえよう」

セッドが自身のフリーザーを起動して水を放つ。

命中したように見えたがその物体は止まらなかった。

そうこうして懸命に駆けているうちにダイブ地点へ戻ってきた。

「はー、はー、速すぎない!?全然捕まえられないんだけど!」

「そ、装置の周りを飛び回っているけど何するつもりなんだ?」

ヴィアも息を切らしながらも攻撃を続けるが一向に当たる気配がない。

その黒い生命体をよく見てみると尻尾がついているが、目などの顔のパーツが無いように見えた。

それなのに、こちらを威嚇しているような殺気が感じられる。

次の瞬間に強烈な光が放たれ目を開けていられなかった。

光が弱まり目を開けると、生命体がバラバラになった何かを自身の周りに浮遊させていた。

「あっ!装置が無くなっているんだけど!?」

あいつが壊したの?でもどうやって。

「くそっ、何が目的なんだ?考えるほど混乱してくる。」

セッドもこの事態に少し冷静さを失ってきている。

するとこの事態を面白がっているように、それは「アハハ!」と笑いだした。

「えっ、喋った!?」

突然のことにヴィアは驚き、攻撃を止めて固まっている。

不気味なそれは笑いながらも話を始めた。

「ふふ、君たちコレクターは優秀なヒトたちって聞いていたんだけどなー?

この僕……リタリーも捕まえられないなんて、とんだ期待外れだよ。」

こちらを小馬鹿にしたような言い方にナージュはムッとしている様子だ。

「な、何よその言い方!それに……リタリーって言った?

緊急脱出装置の破壊までして、あなた何のつもりなの?」

セッドが警戒しながらもリタリーに近づいた。

「お前は何者なんだ?組み直す時に発生したバグではないのか?」

「そうと言えばそう、違うと言えば違う……とだけ。

今はまだ君たちに話す時じゃないんだよね。

僕は君たちをリライトするつもりはないよ、だからそんなに警戒しないで」

リタリーは私たちの周りをクルクルと飛んでいる。

「警戒するなって、信じられるわけないよ。

じゃあなぜ僕たちの邪魔をしたの?」

ヴィアは装置があった場所を指しながら言った。

「それは……僕と遊んでほしいからだよ!

というより、そういう命令が出されたからね。

僕はアルカナ様の使者として、君たちの相手をしなくちゃいけないの。

時間も勿体ないし、さっそく始めよっか!」

そう言うとリタリーはバラバラになった装置のパーツを黒い光で包み、四方八方へと飛ばしていった。

「ちょっと、何しているのよ!」

私たちはすかさず回収しようとしたが、こちらの動きを読んでいるようにかわしていく。

「だって、今捕まえちゃったら楽しくないでしょ。

これから君たちには宝探しをしてもらうんだから」

「は?お前はさっきからどういうつもりなんだ。

悪戯にしても度が過ぎているぞ」

セッドは今にも怒り始めそうだったが、何とか抑えている。

「だから悪戯なんかじゃないって。

言っておくけど、君たちはこのゲームに参加するしか方法はない。

アルカナ様が楽しんでいる間は君たちのリライトをしないって保障するよ。

だけど少しでも反抗しようって言うなら」

リタリーは私がさっき直したばかりの時計の近くに行き、黒い霧で包んだ。

そして見る見るうちに、原型をとどめないほどのドロドロした液体に変わった。

こちらにまで届いた微かな霧は、少し吸い込むだけで気分が悪くなりそうなほどだった。

「ね、分かったでしょ。僕らは本気だから」

彼らは私たちをいつでも殺すことができる、そうはっきりと分からされ背筋が凍りそうになった。

「……分かった、君たちに従おう。」

セッドは覚悟を決めたように言った。

「じゃあルール説明ね。

この館にある沢山の部屋のどこかに4つの装置のカケラを隠した。

それを全部集めたらアルカナ様の所に繋がる扉が出現するよ。

制限時間は2時間、タイムアップはゲームオーバーと一緒。

それがどういうことかは分かるよね?

それじゃあ楽しんで、バイバーイ!」

それだけ言うとリタリーは姿を消し、あたりが不気味なほど静かになった。

私たちの覚悟は決まっていた。

「行こう、みんな」

「はい!」

私たちは奇妙な冒険への一歩を踏み出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

泡沫のミラージュ 黒実トア @kurofor_good

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ