第4話 決戦準備
平穏だったその空間に耳をつんざくような緊急変異警報が響き渡り、緊急時に起動するランプが赤く点滅している。
『本部から各パッチワーク班へ。
C班が任務にあたる予定だったゲーム内でバグの異常発生を検出。
事前調査では見当たらなかった新たな人工生命体が複数感知されている。
C班は直ちに現場へ赴き、現状把握と緊急修復に努めよ。
他班は一度本部へ帰還し、指令を待て』
放送が終わると同時に、私たちのバブルミラーへも指令が通知された。
コレクターになる前に緊急事態の対処は訓練を受けているが、実際に現場で経験するのは初めてだ。
混乱を抑えきれていない私とは対照的に、先輩たちはいたって冷静だ。
「ヴィア、ナージュ。ゲーム内にダイブする前に最終安全確認と『フリーザー』の準備を」
「はい!」
セッドは二人にテキパキと指示を出してから私の方へ向き直る。
眉をしかめて何か考えているようだ。
「リーダー、私にも任務に行かせてください!
さっきの共鳴投影のことはあるけど……体調に問題はないし仕事はきちんとできるはずです。
それに実践したほうが、この能力とも上手く付き合うコツを早く掴めるかも。
だから、お願いします!」
自分自身と任務のどちらを優先したいか、私の中では決まりきっていた。
それに何より、この緊急事態だ。専門分野で少しでも先輩たちの役に立ちたい。
セッドはかなり悩んだ様子だったが、困ったように笑った。
「本来なら君はケアを受けて、療養期間を終えてからでないと任務に復帰はできない。
しかしこの緊急事態では話が変わってくる。
正直に言って、チームの最大限の力を発揮するにはエリスの力が必要だ」
「じゃあ……!」
エリスの輝く瞳を見つめ、ゆっくりとセッドは頷いた。
「任務遂行を許可するよ。ただし、何があってもリーダーの意見に従うこと。
これが条件だよ、いいね?」
「もちろんです、リーダー!」
私が頷いたのを見てセッドが「よろしい」と言った直後。
ヴィアとナージュが部屋に戻り、私たちのもとへ駆け寄ってきた。
二人の手には四本のフリーザーがある。
「リーダー、安全確認が完了しました。
三分後にはゲートが開きダイブが可能とのことです」
ナージュはカウントダウンを始めた自身のバブルミラーを見せながら説明する。
「フリーザーの起動も完了し、問題なく使用できます」
そう言いながら、ヴィアは私のフリーザーを手渡した。
これは学生時代から使っているものだが、実戦で使うのは初めてだ。
何度と使用しているのに普段より一層重く感じた。
「エリスのことだから絶対参加するって言うと思って、一緒に持ってきたよ。
ここに来てから使うのは初めてだよね?」
「確かに!エリスの、コレクターとしてのデビュー戦だね」
二人はそれぞれのバブルミラーと同じ色のフリーザーを持って、私の方に向き直る。
「それじゃあ……エリスのお手並み拝見といこうか」
三人のものより一回り大きい、ミッドナイトブルーのフリーザーを持つセッドからはリーダーの風貌が感じられる。
「まだ少し緊張しているけど、先輩たちがびっくりするくらい活躍する姿を見せられるように頑張ります!」
「はは、その意気だよ。
……さて、そろそろ時間だ。皆、コードの入力を」
セッドのその声で、画面に入力画面が現れる。
緊急時には任務にあたる直前にコードによる本人確認を行う。
以前任務から帰還する際に、ゲーム内のバグが紛れ込んでしまい、あろうことかそのバグが
当時担当したコレクターへ姿を変えたという事例が発生して騒ぎになったそうだ。
それ以来、出動時と帰還時の本人確認が必須となったため、各コレクターにコードが割り振られている。
ーー私のコードは1001で、パスワードは……うん、入力完了。
全員の入力が終わったところでアナウンスが流れる。
『四名分の入力を確認、セッド・デンスは最終コードを入力せよ』
彼が素早く入力すると画面が切り替わり、そこにはマゼンタ色の海が映し出される。
『パッチワークC班のメンバーと正式に認定。出動を許可する。
ダイブ開始まで……10、9』
「いよいよだ、気を引き締めて行くぞ」
セッドが画面の真正面に立って言った。
「はい!」
私はフリーザーをぎゅっと握りしめて目を閉じた。
『1……true』
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