エピローグ
第七十九話 その後
「おかあさん、どこ?」
人気のない山の中。
昼でも暗いそこで、あてもなくさまよう少女が一人。
ガサッ。
草むらが揺れる。
「だれか……いるの?」
姿は見えない。
声も聞こえない。
少女はきっと、なにもわからずに殺されるだろう。
「そこか!」
声がした。
直後、茂みの向こうでなにかが倒れる音がする。
「だれ?」
笑顔で出てきたのは、優しそうな青年。
目をつぶり、片手には杖を握っている。
「僕は……正義のヒーローさ」
「ヒーロー? 悪い人、いるの?」
「いや、もういないよ」
――――――――――
あの事件、ファントムを倒してから三年。
怪物は、まだ僕達の世界を脅かしている。
けれど、その数は減り、だんだんと犠牲者も少なくなっている。
それもこれも、ファントムを倒したからだろうか。
あれが、敵の最後の切り札だったのか。
今となってもそれはわからない。
しかし、平和に近づいていることだけは確実だ。
「鈴木さーん! 見てください!」
パタパタと、靴音が近づいてくる。
「んー?」
部屋の入口に目をやると、真くんが現れた。
「これ!」
片手に持つなにかをひらひらさせる。
「おー! 卒業証書か!」
彼らはまだ未成年だ。
だから、学校にも行く必要がある。
いつまでもここに閉じ込めるわけにはいかない。
というわけで、僕は彼らを元の家に帰してあげることにした。
当然外に出すのは、秘密が漏れる可能性もあるという意見もあった。
だが、先輩やXは、快く彼らが元の生活に戻ることを許してくれた。
たまに行うヒーロー活動の傍ら、みんなは勉強に励み、友達も作り、青春を謳歌している。
ちなみに、僕は前の職場に戻ってきた。
X曰く用済みらしいが、まあたしかにやることはやったので、帰っていいってことなのだろう。
「そういえば、真くん」
一つ、まだわからないことがあった。
「なんですか?」
「進路は決まったかい?」
彼からは、ずっと秘密だと言われ、隠されていた。
僕は、彼の進路だけはまだ知らないままなんだ。
「有栖は大学進学だろ?」
「学校の先生になるって言ってましたね」
うん、彼女ならいい先生になれそうだ。
「留美子は警察官」
「町を守る仕事、彼女にはちょうどいいですからね」
……一瞬バットを振り回す警察官を想像しかけて、やめた。
「太一くんとオーくんは、まだここで預かっているし……」
どうもあの二人は学校になじめないらしい。
孤児なのもあるのかな。
でも、本人達は勉強のやる気があるようで、よく二人で図書館に行っているのを見かけるし、わからないところを質問しに来ることもある。
「鈴木さんはなんになるんですか?」
「バカ言うな。僕はこれからもここで働くよ」
変な質問しやがって。
「……一緒です」
「え?」
ポツリと、早口で彼が漏らした言葉を聞きそびれた。
「僕も、ここで一緒に働きます!」
そう言って、真くんが制服のポケットから名刺を出した。
それは、僕が見慣れたデザインで……。
「あ、え……ええ??」
理解が追いつかない。
「鈴木ー、かわいい後輩ができてよかったなー」
いつの間にかやって来ていた先輩が、僕をからかうようにニヤニヤ笑っている。
「せ、先輩ー。これ、どういうことなんですかー!」
「もう一年くらい前かな。彼が、やっぱりまだここから離れたくない。もっと、この仕事を続けたいって言うもんでな」
「……」
そんなに前から……。
「ぶっちゃけ人手不足だし、来る者を拒む理由もないしな」
「でも、人手不足なのは危険な仕事だから……」
「なに言ってんだよ、それは彼も覚悟の上だ」
「……」
「それに」
「それに?」
「僕達は、世界を救ったヒーローじゃないですか!」
「……そうだな」
今更なにを言っても無駄か。
大丈夫大丈夫。
彼ならどんな危険だって乗り越えられる。
一緒に戦った僕がそう思うのだから、そうなのだよ。
「じゃあ、今日からは鈴木「先輩」って呼ぶんだぞ?」
「はい! 鈴木さ……先輩!!」
ふふ、良い後輩ができたな。
――――――――――
世界は、未知なる危険で溢れている。
でも、安心してほしい。
僕達がいる限り、君の安全は保障されているのだから。
(了)
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