第七十八話 決着

「だが、これちょっと頭がくらくらするな……!!」


「なんだか変な感じ!!」


「あうあ~~」


 うん、僕もそうだ!


「六人分の感覚器官を一つにしているから仕方ないね!」


 なんてめちゃくちゃなんだ。

 いや、こいつがまともなことをしたためしがないがな。


「ちっ、無駄なことを!!」


 ガキィン!!


 体が吹き飛ばされ、よろめく。


「こんなもので、我に敵うと思うなよ」


 ガンッ!!


 まずい。

 いくら頑丈な体だとしても、攻撃を受け続けるわけにはいかない。


「みんな、自分の使い慣れた五感にだけ集中するんだ!! 操縦は僕に任せてくれ!!」


 全てを完璧に扱うことは、この土壇場では不可能だ。

 だが、自分の得意な感覚だけなら。


「敵はどこにいる!?」


「後ろから、走ってきている音がします!!」


 後ろか。

 僕はロボットの体で振り返った。


「有栖、見えるか!」


「ええ! ファントムが来ていますわ!」


「ぱんちをだそうとしているよ」


「了解……って、え?」


 今、誰の声?

 だが、考えている暇はない。


「今ですわ!」


「くらえーー!!」


 相手のパンチを避け、カウンターの一撃を入れる。


「くっ……!!」


 見事命中だ。

 初めてファントムに攻撃が通る。


「いってー!」


「あ、太一くんには刺激が強すぎたかな!?」


「いや、これでいい!! こっちの方がワクワクする!!」


 それはよかった。


「ないふがとんでくるよ」


「ほんとだなっ……!!」


 僕は体を反らし、避けた。

 よし、この形態でも僕の回避スキルは健在だ。


「じゃなくて!!」


 今度こそ訊こう。


「君は誰だい?」


 どことなく、聞き覚えのある声だが。


「ぼくは、おーくんだよ」


「オーくん!?」


 あのオーくんなのか!?

 言われてみれば、オーくんの声だ。


「マーベラス!! そうか、そういうこともできるのか!!」


「説明してくれ」


「ふむ。君達は自覚できていないかもしれないが、今テレパシーで会話している」


 テレパシー……?

 実際には声を出していないということか。


「そして、それゆえに、本来は話せない有栖やオーくんも問題なく会話できるのだ」


 感覚が繋がっているから、考えたことも伝わるんだ。

 今なら、スムーズに情報伝達ができる。


「貴様ら……なめやがって!!!」


 ファントムが叫んだ。

 その瞬間、彼の両手が鋭い刃になった。


「バラバラにしてやる!!」


 おそらく、今までこれほどまでに苦戦したことはなかったのだろう。

 冷静さを失い、怒りをあらわにして攻撃を仕掛けてくる。


「これこそ、アドレナリンの臭いだぜ。たぎってやがる」


「死ねぇ!!」


「正面から突っ込んできますわ!!」


「みぎてで、くしざしにするき」


「それなら避けるまで!!」


 僕は横に跳び、突き出された右手を避けた。


「ひだり、まにあわない」


 うん。

 ファントムの左手が横に振るわれる。

 このままでは胴体が真っ二つだ。

 だが、避けられない。

 避け方が間違って……。


「バカ野郎、鈴木!! 足元にあたしのバットがあるじゃねぇか!!」


「はっ!!」


 僕は言われるままに、偶然足元に転がっていたバットを掴み、ファントムの刃を受ける。


 キィィィン!!


「さすが、宇宙一硬いバットだぜ」


 この程度では折れない、か。


「ふはは、これでは身動きがとれまい!」


 しまった。

 バットで相手の攻撃を受け止めるのに精一杯で動けない。


「とどめだ!!」


 ファントムが、右手を構える。


「鈴木くん、受け取りたまえ!!」


「所長!?」


 遠くから僕達を見守っていた所長が、こっちにぶん投げてきたのは。


「ありがとうございます!!」


 ばっちり受け取った白杖は、瞬時に刀へと変わった。


「斬る!!!」


「ぐわぁぁぁぁ!!!」


 奴の右手が斬られ、左手の力も弱まった。

 その隙に、跳ねのける。


「いいか決めるぞ!!」


 必殺技の詠唱は君達に任せるよ。


まこと流奥義……」

「どんな悪も貫いてみせる……」


「心眼斬り!!」

「ルミコ・ファイナルドリル!!」


「ぐはーーーっっっ!!!」


 ファントムは吹き飛ばされ、勢いよく壁に叩きつけられた。

 体はもうボロボロだ。


「僕達の……勝ちだ」


 ゆっくりと、歩み寄る。

 もうファントムには立ち上がる余力もなさそうだ。


「ぐふっ……そのようだな」


 ここでとどめを刺すべきだ。

 だが。


「最後に訊きたい。僕達の仲間に……」


「馬鹿なことを。しょせん、我は怪物なり。貴様らと仲良く手を取り合うことなどできん」


「……」


 そうか。

 もしかしたら、とは思ったんだけどな。


「だが……」


 ファントムは、少しだけ口角を上げた。


「この戦いは、人生で一番楽しかったぞ」


 それだけ言い残し、目をつぶった。

 これで、全てが終わったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る