第七十七話 超感覚

「着いた……な」


 あまりにも呆気なさすぎる。

 厳重な分厚い扉がボコボコになっているところもあった。

 けど、怪物の影も形も無い。

 ついに、戦わないまま所長室にたどり着いた。


「所長! 救出に来ました! 鈴木です!!」


 シーン……。


 いないのかな?

 と思っていると、扉がゆっくりと開く。


「よくきたな。入ってくれ」


 意外にも小さなその部屋の中には、ソファが置かれていた。

 そして、そこに座って本を読んでいる人物こそ。


「私が所長だ。君の上司とも言えるね」


 立ち上がり、握手を求められる。


「あ、はじめまして! よろしくお願いします!」


「堅苦しくしてもらわなくてもいいのだよ。私は上下関係というのが嫌いでね」


「はぁ……」


「なにはともあれ、ここから出ようか。引きこもるのにも疲れたよ」


「はい」


 長居する必要もないので、すぐに所長を連れて歩き出そうとする。


「ふふふ、よくぞやり遂げてくれた、鈴木よ」


「ありがとうございま……す?」


 違う。

 これは所長の声じゃない。

 この不気味な声は!


「ファントム!!」


「おぉ、声だけで気づくとはさすがだな」


 出会ってしまった……。


「もっとも、声しか我を捉えるものはないのだがな」


「所長! 隠れてください!!」


「無駄だ」


 所長の服に付いているボタンが弾けた。

 すでに狙いはつけているらしい。


「なるほど、ここを開けるのを待っていたんだな?」


 妙に冷静な所長。


「ご名答。鈴木には、感謝をしているよ」


 クソ、ファントムはここで待ち伏せしていたのか……。

 道中怪物に出会わなかったのは、ここに来させるために……。


「ただ殺してもいいのだが、それではつまらん。ちょっとした余興が必要だろう」


「……」


「問おう。なぜ貴様らは我らを殺す」


「それは……!」


 所長の方を見ると、彼は頷いてくれた。

 僭越ながら、僕が答える。


「お前たちが、人間を殺すからだ!」


「それのなにがいかん? 人間とて、獣を殺す」


「僕達は……生きるために殺すんだ」


「ならば、我らも生きるためだ」


「……」


「目的など、あってないようなもの。お互いはけっしてわかりあえない。それぞれの平和のために、相手を殺すだけだ」


「……」


 悔しいが、何も言えない。

 たしかに、そのとおりだ。


「ここは、単純に行こう」


「単純に?」


「真剣勝負だ!」


「……っ!」


 どこかから、殺気が放たれた。

 しかし、方向はわからない。


「いって……!」


 頬に切り傷ができる。

 いつかのときみたいに。


「ほらほら、どうした?」


 いたぶるように、追い詰めてくるファントム。

 このままでは……。


「おわりだな」


 避けられない。

 避けようがない。


 僕は呆気なく、ここで……。


 ズドォーーーーン!!!


 ものすごい轟音が響いた。

 突然なにかが空から降ってきた。

 硬い天井を突き破って。


 それは箱。

 縦長で、僕より少し高さがある。

 真っ黒のメタリックな。


「なんだ……これは?」


 ファントムも困惑している。

 すると、箱が開いた。

 というか、解体した。

 中には、等身大のロボットが入っている。


「お久しぶりだね、鈴木くん!」


 静かな室内に、バカに明るい声が響いた。


「この声は……」


 全く空気を読まない、頭のネジが外れてる声は。


「なんとか間に合ったかな!? 今回は、ラスボス戦の鈴木くんにスペシャルなプレゼントを用意したよ!!」


「……」


 なんだ?

 なにを用意した?

 どうせろくな発明品じゃないだろ。


 ……期待してるからな。


「さあ、そこの六つのヘルメットをみんな取りたまえ!」


 ヘルメット?

 よく見ると、下の方にヘルメットが置かれていた。

 六つ、つまり人数分だ。


「みんな、あのヘルメットを……」


「させるか」


 ファントムの声が聞こえた。

 だめだ、間に合わな……。


「なにっ……!? なんだこれは!」


 僕達は、なにもしていない。

 しかし、ファントムが動揺し始めた。


「おーーっと、いけない。護身用に持っていた「相手の動きを一分間止めるペンダント」を使ってしまった。せっかくだから、この間に着替えたらどうだい?」


 所長は若干棒読みでそう言って、僕にウインクをした。


「所長……。ありがとうございます!」


 これが最後の希望だ。


「よし、みんな急ぐぞ!」


 僕達は、ヘルメットを被る。

 いわゆるフルフェイスヘルメット……どころじゃない。

 穴が開いていないから、着けるとなにも見えなくなった。

 なんだ、これを着けるとどうなるんだ?


「いいかい? 着けたかい?」


「ああ!」


「それじゃあ、ドッキングスターーーート!!」


 ドッキング!?

 マジでこれなんなの!?


――――――――――


「はっ……!?」


 寝ていた。

 意識が途切れていた。

 なぜだ。


「どうだーーーい、具合は?」


 具合?

 具合って……。


「目、目が見えます!」


「耳が聞こえますわ!」


 え?


「それはよかった! 実験成功だ!」


「おい、真土。これはなんだ?」


「そのヘルメットが君達の脳をスキャンし、ロボットに搭載されているコンピューターで再現しているんだ!」


「……?」


「今君達の持つ全ての感覚はあの一つのロボットの中で結合しているのだ!」


「な、なんだってーーー!?」


 だから、つまり、ええと……。

 今真くんの目が見えているのは……というか、この視界はロボットからの視界で、六人とも同じ景色が見えているのか!


「常人のみならず、超能力者の君達でも補足できない。ならば、力を合わせればいい!」


「力を……」


「僕はこのロボットを名付けた、【SSS(スペシャル・センス・サバイバー)】とねっ! 類まれなる超感覚を持ち、明日を生きる君達へのリスペクトだ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る