第七十六話 突入

「なに? 三番隊、弾切れで敵に遭遇!? 近くに七番隊がいるはずだ、東に逃げて合流しろ!」


 テントの中に入ると、トランシーバーを手に持ったまま、忙しそうにあれこれ指示を出している人がいた。


「あの、すみません!!」


「なんだ貴様らは!!」


 ひぃ、怖い!

 でも、怯んでる場合じゃない。


「僕達は……」


「ああ、コードネームχだな。待ちくたびれたぞ!!」


「はい、そうです!!」


「いや、俺も君達を怒鳴りたくはないのだが、状況が状況だ。手短にすませるぞ!!」


「わかりました!!」


「お前たちに突入してもらうのは、建物内だ! もう十分わかっていると思うが、怪物は集団で攻めてきた! 現在我々はそれらと交戦中なのだが、特に屋内がひどい!!」


「……」


「狭い屋内では武器の使用も限られる! それに、視界も悪く反応が遅れてしまうのは必然だ!」


 その通りだ。

 僕達も屋内で戦ったことがあるからわかる。


「さらに、ファントムの野郎はこちらの戦力を削ぐための最善手を打ってくる!」


 つまり?


「具体的に言えば、まず指示をするリーダーが狙われる!!」


 リーダー……。

 この中で、リーダーは……。


「だから、君、その首は大事に守っておけよ!!」


「は、はい……!」


 前回みたいに、殺されかけないようにしよう。


「最後に一番重要な目的だが……」


 救出だよね。


「最奥部には所長がいる!!! なんとしても彼を救出するんだ!!」


「了解です!!」


「いいか、最も危険なのは撤退時だ!! 所長の身を守り、ここまでお連れしなければならない!」


 なるほど。

 たしかに、帰りは守りながらになる。

 より慎重に行動しなければ。


「できるかどうかなど問わん!! 君達には成功だけが求められる!!」


「はい!」


「いいな!? それでは行け!!」


「はい!!!」


――――――――――


 山に溶け込むような深緑の建物。

 見るからにわかる堅固な作りだ。

 これだけの騒ぎが起きても、壁には傷一つない。

 傷は……ない。

 血はたっぷりついている。


「ここから先は危険地帯だ」


「一度入った者は、二度と出てこない」


「だが、君達ならきっとあの方をお救いできると信じている」


 そう入口で送り出されて、僕達は建物に入った。

 非常灯の明かりだけが、中をぼんやりと照らす。

 視界がいいとは言えない。

 そして、煙い。

 火薬の臭い……なのかな?

 鼻につく。


「……」


 だが、それよりも気になることがある。


「なにも……いませんね」


「うん……」


 気配がない。

 まるで廃墟のように静まり返っている。

 壁の血はまだ乾いていないから、ついさっきまでなにかがいたのは確実なのに。


「不気味……ですわね」


「あぁ……」


 そりゃあ、なにもいないのならそれに越したことはない。

 だが、そんな馬鹿な。

 ここは激戦区のはず。

 所長のいる本部なんだぞ?


「おかしいな……」

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