第七十一話 スイカ割り

「真はちょっとはしゃぎすぎですわ……!」


 口を尖らせる有栖。

 彼女ももちろん水着姿だ。

 普段はおとなしい彼女だが、水着は以外にも大胆。

 黄色のビキニを着ている。

 普段は着痩せするタイプのようで、今は大きな胸が強調されている。

 女子高生が着るにはまだ早いんじゃないかな……?

 ナンパでもされたら大変だ。

 まあ、ここには僕達以外誰もいないけどね。


「まあまあ、いいんじゃない? 歳相応だよ」


「……。私も、一緒に遊びたかったですの」


 なーんだ、そういうことか。

 有栖は自分を置いて一人で遊びに行った真くんに怒ってるんだな。

 なんてかわいいのだろうか。


「気持ちはわかるが……、安静にって言われてるからね」


 まだ足の怪我も治っていない。

 幸い大怪我ではなかったが、もう少し様子見だ。

 この休暇中は、泳ぐのは禁止だとお医者さんからも釘を刺された。

 なので彼女は、ビーチパラソルの下でさっきから真くんを睨んでいるのだ。

 日光浴なり読書なりすればいいのだが、そうしないところからは、彼女も海に入りたかったのだろうという気持ちが伝わってくる。


「仕方ないな……」


 ここは大人の僕が、手助けしてやろう。


「おーーい!! 真くーーん!!」


「なんですかーーー?」


「スイカ割りしないかーーーい!」


――――――――――


 スイカ割り!

 海に来たらやってみたいことベスト3には入るな!

 僕は今、それをやるんだ!!

 初めて!


「じゃあ、ここに立って?」


「はい!」


 鈴木さんに手を引かれる。

 ここがスタート地点か。


 スイカ割りは、目隠しをして、周りの人の指示通りに動いてスイカを割るゲームだ。

 ただ、僕に目隠しは必要ない。

 むしろ、普通の人よりは簡単にできちゃうかもな。

 だって、この暗闇にはもう慣れているから。


「始めるわよ!」


「はい!」


 ちなみに、手に持っているのは棒じゃない。

 いつもの杖だ。

 だから、正確にはスイカ斬りといったところ。


「前に三歩ですわ」


 前に……1、2、3。

 柔らかい砂の沈み込むような感覚が、素足に伝わる。

 慣れない刺激で、すごく新鮮。


「右に向いて、五歩」


 右で……1、2、3、4、5。

 どうかな?

 近づいてるかな?

 普段は杖を使って確認するけど、今はスイカ割りを楽しむためにあえて杖は前に出さない。


「半歩左にズレてくださいませ」


 こうかな?


「そこで縦に斬るんですわ!」


「えい!!」


 手ごたえありだ。

 サクッと、水気のある果物が斬れる音がした。

 これで、スイカ割りは終わりだね。

 なんだかあっけな……。


「次に、刀を右に45度傾けて斬る!」


「……え!?」


 まだ続くの!?

 それに、指示がいきなり難しくなった!?


「こ、こう!?」


 一応斬れた。


「同じく左に45度傾けて斬る!」


「こうかな!?」


 こっちも斬れた!


「最後に横一直線に斬る!」


「えーーい!!」


 スイカ割りってこんなに難易度高いっけ???

 斬り方まで指定されるなんて……!


「上出来ですわ、真」


 ポンポンと、有栖が僕の肩を叩く。


「い、いったい僕はなにを……?」


「ほら、あなたの分よ」


 有栖の手が、僕にスイカを握らせた。


「あ、これ……」


 きれいに八等分になっている……かな?


「ちょっと……失敗したかも」


「いえ、はじめてにしては完璧ですわよ」


「ありがとう……」


「さあ、向こうで一緒に食べましょう?」


「うん!」


――――――――――


 うむ、これこそが青春である。

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