第六十七話 群れ
「有栖、大丈夫か!!」
「右足が……!!」
苦しそうに顔を歪める彼女。
「ここか!!!」
留美子が有栖の右足めがけてバットを突き出す。
もちろん狙いは有栖ではなく、彼女を襲う怪物だ。
「へへ、手ごたえありだぜ」
重そうにバットを掲げる。
次第に魚の姿が見え始めた。
きれいに串刺しにできたようだ。
「有栖、あと何体いるかわかるか?」
「メガネを外せば……」
だが、彼女は迷っている。
「ですが、それではみなさんとの意思疎通が……」
「大丈夫!!」
「僕達なら、有栖の言ってることわかるよ!」
力強い返事だ。
なにせ、ここまで一緒に戦ってきた仲間だからね。
「……そう、ですわね」
有栖がにっこりとほほ笑み、メガネを外す。
その瞳は、いつもよりキリッとしている。
「ん!!」
有栖が水中を指さす。
「えい!」
真くんが水を斬ると、真っ二つに斬れた大きなサーモンが浮かんできた。
あ、やっぱりキングサーモンだったんだ……。
「んん!!」
「えーい!!」
太一くんが思いっきりパンチをする。
二匹目も、浮かんできた。
「一体何体いるんだ!?」
「んんん!!」
「うおっと!?」
跳んできた。
魚が跳ぶわけないって?
実際に跳んできたんだから、しょうがないだろ。
とっさに避けたので直撃は避けられたが、頬にヌルヌルしたものが触れる。
「そらよ!!」
「二匹目だ!」
留美子のバットには、二匹の新鮮な魚が串刺しにされている。
これだけ見ると、美味しそうかも。
最後に、有栖がメガネをかけなおした。
「これで……全部ですわ」
「ありがとう、有栖」
突然の襲来だったが、なんとかなった。
まさか魚型の怪物までいるのは想定外だったがな。
「あっ……!」
「おっと!」
有栖がよろめいた。
僕はとっさに受け止めた。
「大丈夫か?」
「ちょっと……足が痛くて……」
足元の水には、有栖の血もにじんでいる。
怪我をしたんだよな……。
「待ってろ」
手持ちの医療セットで、応急処置くらいはできる。
カバンから出した包帯を巻く。
「これでよし」
詳しい検査とかは、ここを出てからだ。
今は何よりも、危険地帯から抜け出さなければ。
「歩けるか?」
「……」
その顔じゃ、無理そうだな。
「僕が、背負っていくよ」
「え……! いえ、そんな!」
「無理するなよ。僕達はみんな揃ってここから出なきゃいけないし、なにより心配だからさ」
「鈴木さん……」
「それに、案外鈴木の近くが一番安全だぜ? 鈴木は危機察知能力はこの中で一番だからな」
それはそうかもな。
攻撃を避けるのは得意だ。
「有栖は、そこで敵の警戒をしていてください」
「戦うのは俺達がやるからさ!!」
「あうあ!!」
「みなさん……」
出口まで、もう少し。
あと一部屋だ。
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