第六十八話 蹴り

「もう少し……」


 やっと、ここから脱出できる。


 ズン……。


「止まって……ください」


 真くんが静かに言った。

 原因は……この音だろう。


 ズン……。


 僕でさえも聞こえるほど、廊下全体に響く足音。

 恐竜でも近くで歩いてるのかってくらいだ。


「そこの角から……なにか来ます」


 後ろから来たなら、出口まで突っ走るのもありだった。

 だが、前から来ているのなら、戦わざるをえないな。


 ズン……。


「これ……チキンの匂いだ」


 チキン?

 つまり、鶏ってことか?


「あぁ……鳥の臭いだな」


 ズン……。


 曲がり角の向こうから、ついにそいつが現れた。

 最初に見えたのは、太い足。


「有栖……なにかわかるか?」


「あの足……やはり鳥ですわ。そして、かなり強靭で……」


 ズン……。


 足だけでなく、全体も見えてきた。

 どうやら頭にはトサカがある。

 だが、にわとりにしては背が高いな。

 ダチョウか?

 いや、ダチョウにトサカはない。


 ズン……。


「ヒクイ……ドリ……?」


「え?」


「あれは、ヒクイドリですわ……!」


 ヒクイドリ?

 聞いたことないな。


「ヒクイドリってどんな鳥なんですか?」


「つえーのか?」


「おいしいの?」


 ズン……ダッ!!


「来ます!!」


 ヒクイドリがこっちに向かって、走り出した。

 空を飛ばないのは幸いか?

 にしても、早いな!

 一瞬で距離を詰めてくる。


「ヒクイドリは、時速50kmで走るとも言われていますわ!!」


 50km!?

 車と同じくらいじゃないか!


「僕が!」


 真くんが、迎え撃つために前に出る。

 そこへ、有栖が叫んだ。


「真、一歩後ろへ下がって!!」


「っ……!!」


 なぜそんな指示を出すのか。

 そのまま斬ればいいのではと思った。

 が、それが間違いなことは相手の一撃で察した。


「キーーン!!!」


 たくましい足が、真くんをかすめる。

 爪に引っかかった服が裂けた。

 強烈な蹴りを繰り出してきたのだ。


「その鋭い爪で獲物を刺し殺すんですわ!!」


 うわぁ……。

 なんて生き物だ。

 これは怪物がというか、元の動物が強すぎるな……。


「キキーン!」


 会心の蹴りを外した鳥は、潔く下がっていく。

 距離を取り、再び攻撃のチャンスを窺っているようだ。


「どうする……?」


 出口に続く道はここだけだ。

 門番のように待ち構えるあいつとの戦闘は避けられない。

 なんとしても、倒さなければ。

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