第六十六話 水中
「ファントム……なにものなんでしょう」
帰りの道中は、それはそれは気まずい雰囲気になっていた。
そんなとき、有栖が呟いた。
みんなも同調して、話し出す。
「あいつ、全然気配に気づけなかったです……」
「あたしも」
「俺も!」
「うぅ!」
みんなわからなかった……か。
「怪物の透明化とは違い、君達でも見破れない強力なステルス能力があるのかもな」
なんにせよ、それを調べるのは研究所の仕事だ。
君達が気に病む必要はない。
「いや、みんな落ち込むなよ! まだ作戦は終わってない。考えるにしても、終わってからだ!」
「……はい」
――――――――――
「あの……」
すっかり口数の減ったみんな。
久しぶりに、真くんが口を開く。
「どうした?」
「水の音が聞こえます」
「……水の音?」
こんな建物内で?
「はい。この先の部屋から、水が出てる音が……」
「う〜ん……。水道管でも壊れてるのかな……」
なにしろ激しい戦いの後だからね。
「そこです! その部屋から!」
「ここ?」
行くときに通ったときは気づかなかったが、たしかに耳を澄ませると水道を開けっ放しにしているような音がかすかに聞こえる。
僕は部屋のドアについている窓を覗き込んだ。
「あー、中は……」
水浸しだな。
僕の腰くらいの高さまで水が溜まっていて、いろんなものがプカプカ浮いている。
ただ、部屋は密閉されているのでとりあえず大丈夫だろう。
「危ないから早く先に……」
ドン。
なんだ?
今、ドアが揺れた。
「当たってます、なにかがドアに」
ドンドン!
「……」
また聞こえた。
今度はさらに強く、二回。
嫌な予感がする。
「みんなドアから離れろ!!」
ドゴォン!!
激しく扉が吹っ飛ぶ。
当然中の水もなだれ込んできた。
廊下が水浸しで、川のようになる。
足首くらいまでしか浸かっていないが、流れが強く、流されそうになる。
部屋には相当水が溜まっていたようだ、まだ出続けている。
「壁につかまって! 倒れないように!」
パシャッ!
なんだ?
妙な水音が聞こえた。
水が流れる音ではなく、水面を移動するような音。
見た感じ、みんな動いていないのに。
「有栖! なにか見えないか!!」
変だ。
なにかがいる。
「待ってくださいませ! 私のメガネが水滴だらけでよく見えませんの!」
僕も水しぶきでうまく見えない。
しかし、気配がする。
「鈴木! この生臭い臭いは魚だぜ!」
「うん!! お魚のおいしい匂いがする!!」
魚……。
そうか、だから水が……!
「あうぅ!!」
「どうした、オーく……って、それ!!」
オーくんが両手で重そうになにかを抱えている。
そのおかげで、ぼんやりとだが姿が掴めた。
敵はやはり魚だ。
大きさはキングサーモンくらいだろうか。
だが、蟹やトンボに比べたら小さい方。
これならなんとか……。
「きゃっ!!」
「どうした!?」
「足……噛みつかれましたわ……!!」
「ええ!?」
まさかこの魚、一匹じゃない!?
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