第六十三話 羽音
「さっきの怪物は、ファイトクラブだな」
「ふざけてんのか?」
だ、だってそう書いてあるんだもん!
研究所から回収された文書を読む。
「巨大なはさみで硬い鋼鉄をも断ち切るらしい。それに、その殻は銃弾でさえも弾くほどの硬度だってさ」
だから太一くんのパンチも効かなかったんだね。
けど、留美子のドリルは見事貫いた。
「それ、どこでもらったの?」
普通のバットじゃないのは明らかだけど。
「真土の野郎からもらってきたんだ。なんでも「宇宙で一番硬い物質」でできているらしいぜ」
「本当に?」
そんなものまであるのか?
にしても、本当にすごい武器作るなあいつ……。
「疑うなら、本人に訊いて来いよ。アンドロメダ銀河のなんとか星人と物々交換で手に入れたって話を長々聞かされるぞ」
「……遠慮しておこう」
真偽はともかく面倒くさいことは伝わってきた。
「すぐにはさみが生えてくるのも驚きましたねー」
「うんうん」
あの再生速度はすごかった。
弱点が見つからなかったら、一生足止めをくらっていただろう。
なにはともあれ、一難去った。
「あ、そこの分かれ道は右だよ」
順調に中を進んで行く。
「えーと……」
資料と地図を確認してみる。
しばらく進むと、また実験室が見えてくるみたい。
つまり、次の怪物と出会う可能性もあるってこと。
「みんな、気を抜かないようにね」
次に出会うだろう怪物は……。
ブブブブブブ!
「うわ! なんだ!?」
耳元で虫が飛んでいるような音がした。
「うわ!」
「うるせー!」
みんなにも聞こえているようだ。
「鈴木さん! なにか情報はないんですか!?」
そうだった。
それを見ようとしていたんだ。
急いで資料に目を通すと、そこにはこう書かれている。
「廊下を高速で飛び回る羽音に注意しろ。一瞬でも目を離すと、仲間の首が飛んでいた」
羽音?
この空気が振動している音のことだよな?
「見えませんわ!!」
有栖が叫んだ。
「見えないって!?」
「たしかにここにはなにかがいますの! でも、あまりに早すぎてぼんやりとした残像しかとらえられませんわ!」
そういうことか……。
有栖の動体視力をも超える速さを持つ怪物。
厄介な相手だな。
「これ、たぶん虫の羽音ですよね!?」
「おそ……らく……!」
相変わらず体が無意識に動く。
避けられるのはいいが、こんなにハイペースで避け続けてたら体力の限界はすぐに来てしまう。
「太一くんはわからないのか!?」
「わからん! 虫なんて食べたことないもん!」
それはそうか。
となると、頼りになるのは……。
「う〜〜〜……あう!!」
「……!?」
オーくんが虚空に手刀を繰り出した。
すると、一瞬音が止まり、わずかに姿が見えた。
あれが本体か!
「やるじゃん、オーくん!」
「トンボですわ! 超巨大な……!」
「トンボ……」
羽音がした時点で予想していたが、やっぱり虫だったか。
トンボか……。
虫だからって、侮れんぞ。
相手は僕達とほぼ同じサイズのはずだ。
高速で動き回るし、忘れちゃいけないのは肉食だってこと。
首が飛んだってのは、強力な顎に噛みちぎられたんだな……。
「なにか……策は……」
あいつが止まってさえくれれば、仕留められるんだ。
奴を止められるもの……。
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