第六十一話 到着

「みんなー! 眠たいだろうけど、よく聞いてくれよー!」


 道中、車の中で大声を出す。


「はい……」


 かろうじて真くんだけが返事をしてくれた。

 他のみんなも一応目は開いてるし、起きてると信じて説明しよう。


「Xからもらった地図を見て、金庫がある部屋に向かう最短ルートを考えてみた。だが、最短ルートで進んでも最低五つの部屋の前を通らなければならないようだ……」


「なにか……問題でも……?」


「すでに言われたように、全ての檻は開いていると仮定したら……。中にいた怪物は、今ごろ廊下をうろついているだろうな」


「戦うしかないってことか……」


「そうだ……」


「食べ放題ってことか……」


「(食べ放題……? まあ、見方によれば)そうだ……」


 ん……?

 今のはツッコむべきだったか?

 いけない、僕もまだ寝ぼけてるな。


「だから、みんな覚悟を決めてくれよ!」


「覚悟なんてとっくに鈴木さんと初めて出会ったときからしてますよ」


「それより、鈴木さんこそ食べられない覚悟でもしてくださいませ」


「……」


 うん、みんな大丈夫そうだな。


――――――――――


「到着です。向こうの方に歩いていけば、待機部隊がいます」


「わかりました。ありがとうございます」


 僕達が降り立ったのは、山の中だった。

 それはそうだろう。

 人に見られてはいけない研究所があるのだから。

 しばらく木々をかき分けながら、僅かな獣道を歩いていると、テントが見えてきた。


「すいませーん!」


 開けた場所に出た。

 大勢の軍服を着た人達が、行ったり来たりしている。


「おぉ、あなた達が特別部隊の方々ですね!」


 こちらに気づいてくれた一人が、走り寄ってきた。


「特別部隊?」


 僕達は特別部隊では……。


「あれ、Xさんから伝えられませんでしたか? あなた達は、コードネームχ(カイ)。あの化け物を退治するスペシャリストだと、聞いていましたが」


 コードネーム、χ?

 スペシャリスト……ではある。


「いや、聞いてなかったです……」


「なるほど……。きっとXさんは恥ずかしいんですね」


「え?」


 彼女が恥ずかしい?

 そんな素振りは見えなかったが。


「コードネームχは、あの方が相当信頼を置いたチームにしかつけないんです」


 信頼……。

 そうか、それを面と向かって伝えられなかったから、恥ずかしがってるってことなのか。


「初仕事でその称号をもらえるなんて、僕も初めて聞きましたよ。それだけ頼りにされている証です」


 思ったより、頼られているみたい。

 僕達もその期待に答えなきゃな。 


「ただ……」


「ただ……?」


 そんなに暗い顔になられると、こっちも不安になる。


「ええと、あまり不安にさせることは言いたくないのですが……」


「……」


 なんだろう。


「χの称号を持つものは精鋭であるがゆえに、危険な任務を任され、散っていくことがしばしばあります。ですので、どうかくれぐれも油断なさらぬように」


「……」


 信頼されていることと、生き残ることは関係ない……か。

 当然といえば、当然だ。


 僕達は、ここで死ぬわけにはいかない。

 必死で頑張るぞ。


「さて、これ以上立ち話をしている時間はありません。行きましょう」

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