第四十五話 恐れ

「なんだ、鈴木? 話ってのは?」


 僕は、自分なりに考えたことを先輩に話すことにした。


「わかりました。彼の能力が」


「……彼ってのは、オメガのことか」


「はい」


 それにしても、新しく名前つけてあげたいな……と密かに思う。


「彼の説明の前に、改めて能力者についての説明をさせてもらいます」


「おう」


「この研究所に所属している、僕が偶然にも出会った少年少女は、五感のどれかが欠け、その代償として残りのいずれかの五感に人間離れした強化がなされています」


「それ自体は、たまにあることだよな。普通の現象だ。つまり……オメガも五感が強化されていると言いたいんだな? だが、全て潰れているなら、いったいどこが?」


「第六感です」


「……」


 先輩の眉がピクリと動いた。


「科学的な証拠はありません。しかし、僕の予想を聴いていただけないでしょうか」


「もちろん」


「第六感とは、虫の知らせとも呼ばれる、オカルト的な感覚のことで、人の直感に由来していると言われる感覚であるということはご存じですよね」


「ああ」


「これから僕の言う第六感は、それらを含めて、彼に備わる未知の感覚についてを便宜上第六感と呼ばせていただます。既知の人類の五感には当てはまらない未知の感覚なので」


「ほう」


「結論から言うと、彼は人の心を敏感に感じ取ることができます」


「なぜそう思う」


「きっかけは、技術部の真土さんが彼に接触した時でした。今まで実験のたびに暴れていた彼が、急に落ち着いたのです」


「……」


「おそらく、真土さんと対面したときに彼が敵意を表さなかったのは、真土さんが自分を敵だと認識していないと気づいたからではないかと」


「はは、そうだな。真土は頭のネジがぶっとんでるから、恐れを知らない。恐れってのは、相手を信用していない、ある意味では敵と認識した時に沸き上がる感情だ。たしかにそういう意味では、恐怖の感情がない真土に攻撃する必要はないな」


「そういうことです。つまり、僕達は彼に対してネガティブな感情を持つべきではない。フレンドリーに接すべきなんです」


「わかるぞ、お前の言いたいことはわかる」


 僕の曖昧な意見に、先輩は深く頷いてくれた。


「だが、お前だって彼に恐怖しているだろう? 恐れってのは、制御できない。そこんとこ、どうするつもりだ?」


「そこで、提案がありまして」


「なんだ?」


「彼らなら、友達になれそうです」

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