第四十六話 親愛

「今日は、君達に新しい仲間を紹介しようと思う」


 僕は廊下を歩きながら、そう説明する。


「新しい仲間?」


「誰なのでしょう?」


 今日は4人とも揃っていて、賑やかだ。

 彼も、きっと楽しんでくれるだろう。


「ほら、みんな入って」


 僕はみんなを、彼が閉じ込められている部屋に連れてきた。

 部屋の中央には、未だ手足が縛られている彼が佇んでいる。


「おっ、こいつはこの前あたしに蹴り入れた坊主じゃねか」


「元気になったみたいでよかった!」


 元気も元気、元気すぎるくらい元気だ。

 この前怪物用の麻酔を射たれたのに、後遺症もなく暴れ回っている。

 いいことだ。


「改めて説明しよう。彼はこの前無人島に調査に行った際に見つけた謎多き少年だ」


「無人島って……もちろん怪物もいたんですよね?」


「ああ。だが、彼は持ち前の逞しさでここまで生き抜いてきている」


「すごいですわね……」


 初めて彼を見る真くんと有栖は、感心するように彼を眺める。


「そして、これが重要なんだがな」


 最初にこれを伝えてもいいのだろうか。

 変な先入観を持ってしまわないだろうか。

 少し心配になったが、彼らなら大丈夫だ。


「彼には五感がない。だが、不思議な力で僕達の考えていることがわかるみたいなんだ。そんな彼に、君達ならきっと仲良くしてくれると思って、紹介することにした。これから彼を、よろしく頼むよ」


「そうなんですね……」


「よろしくお願いしますわ」


「よろしくな」


「よろしくー!!」


「うあ……」


 よしよし、反応は良好だ。

 やはり、僕の仮説は間違っていなかった。


「なぁなぁ、元気になったらまたバトルしようぜ!」


「次はあたしも本気出すからよ!」


「うう!」


 叫びも、心地いい。

 今までのものとは違い、不快感がないようだ。

 まったくストレスがないときの彼は、こんなんなのだろう。


「ねぇ、鈴木さん」


「なんだい、真くん?」


「彼に……触ってもいいですか?」


「ああ、もちろんだとも」


 とは言いつつも、僕は一歩下がった。

 これが、この行動がいけないのはわかっているが、やはり怖い。

 ちなみに、真くんに警告や注意をしなかったのは、余計な恐怖を与えたくはなかったからだ。

 危ないから気をつけて、なんて言ったら誰だって身構えてしまう。

 それ抜きの、みんなの純粋な心こそが、危険と隣り合わせで生きてきた彼を癒すことになるだろう。


「ふふ、初めまして」


「う……!」


 最初、手が頭に触れたとき、少し驚いて身じろぎをした。

 もしかすると、こんな風に優しくなでられるのは初めてなのかもしれない。

 かたや真くんは、彼を優しく丁寧になでている。

 そうだ、彼は目が見えないから、こうやって触ることで見た目を想像しているんだ。


「きっとこれまで苦労したんだよね、わかるよ」


「私も……触っていいですか?」


 有栖も彼をなで始めた。


「あう……」


 複雑な表情になる彼。

 少し困惑しているようで、けれどリラックスしてるようにも見える。


「私も耳が聞こえなくて苦労したことはたくさんありましたわ。だから、少しだけどあなたの気持ちがわかるんですの」


「困ったときは言うんだぜ。お互い助け合うんだ」


 留美子も彼に近づく。


「おいしい食べ物の見分け方も教えてやるからな」


 ……相変わらず目標がズレてる子がいるんだよな。

 まあ、みんなで飯を食うってのは賛成だ。


 と、僕も自然と笑顔になっていたときだ。


「ああああ!!!」


「え!?!?」


 なんだ、どうした!!

 さっきまで完全にリラックスしていたはずなのに、突然大声を上げて拘束具をぶち破った。

 それは完全に想定外だ!

 今から警備員を呼ぶか!?

 いや、間に合わな……。


「ううう~~!」


 あれは……。

 なんだ、心配して損したぜ。

 僕の予想とは裏腹に、彼はただみんなに抱きついただけだった。

 彼も、みんなのことを触りたかったんだな。

 たしかに、それなら自由になりたいのもうなずける。


「おい、鈴木!! 大丈夫か!?」


 破壊に伴う警報を聞き、先輩が慌てて駆け付けてきた。


「大丈夫です。それより、見てくださいよ」


「あ、れは……。ずいぶんと仲が良さそうだな」


 本当に、羨ましいくらいに楽しそうだ。

 この四人なら、世界も救えそうだな。

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