第四十四話 被検体
「被検体オメガ」
これが、彼の名前だ。
名付け親は知らない。
「うあう!!!」
見た目は普通の少年ってところだ。
歳は太一くんと近そう。
だが、振る舞いは野生動物そのものだ。
ここに連れてきたのはいいが、暴れまわって大変だった。
「……」
あの島から持ち帰った資料は、一通り読んだ。
彼は、意図的に作られた人間だ。
いや、言い方が悪いか?
人間に限らず、たいていのものは意図して作られるもんな。
それでは、こうする。
彼は、組織によって生み出された。
けっして、一般家庭で生まれたわけではない。
だから、両親は不明。
育て親は……どこぞの研究者だろう。
「……」
彼が生み出された目的は、怪物を倒すため。
人類を減らした世界を作っても、そこに怪物が残っていたら意味がない。
その掃除役として彼は生まれた。
逆に言えば、彼にそれ以外のことは期待されていない。
「……」
彼は生まれつき――遺伝子操作のせいで――五感が機能していない。
どれか、ではなく全てがだ。
彼にとって、外界はあってないようなもの。
「なんて……ひどいんだ」
僕も、彼らとの出会いでわかっていた。
言い方は悪いが、五感のどれかに異常がある人は、なにか特別な能力を持っている。
彼を生み出した組織も、それをわかっていたから、彼の五感を奪ったんだ。
だが、それにしたってあんまりだ。
許されない行為だ。
「……」
どうしたものか。
彼をここから解放することはできない。
だから、できれば仲間になってほしいのだが。
でなきゃ、一生ここに閉じ込めることになってしまうが、僕だってそんなことはしたくない。
意思疎通はできるのかな。
とてもできそうには思えないが。
やってみなきゃわからない。
「こ、こんにちはー」
「あう!!」
吠えられる。
会話はできそうに……。
「あれ?」
彼はどうして、僕が話しかけていることがわかったんだ?
偶然彼の叫びが返事のように聞こえただけ?
それとも……。
「おやおや、彼が今話題の少年ですね!」
もう少しでなにか閃きそうだったのに、邪魔が入った。
僕に話しかけてきたのは、技術部の真土だ。
「彼、五感がないんだって? すごく面白いね!」
「……」
悪気はないんだろうが、「面白い」という言葉がひっかかる。
「ちょっとだけ、近くで見てもいいかな」
「……いいんじゃないか?」
コミュニケーションは取れないと思うけど。
「どうも、初めまして。私真土と申します」
「うう……」
「ちょっとだけ、君の体に触らせてもらえませんか?」
「あっ、おい!!」
近づいたら危険だ。
今まで何人の研究員が怪我をしたことか。
僕は真土を止めようとした……のだが。
「おや?」
今日は妙におとなしいな。
いや、今日はというより、今は。
さっき僕が話しかけたときは吠えられたのに。
「あうー……」
嫌がってはいるが、暴れる様子はない。
渋々触るのを許している。
なぜだ。
どうして真土には態度が違う。
「うーん……」
僕達と、真土の違い……。
ここにヒントがありそうなんだが……。
「あ、もしかして……!」
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