第三十五話 手作り

「今日は君の能力について訊きたいんだが……」


「ああ? 前にも言っただろ。臭いでわかるって」


「それは、あの怪物以外も識別できるのか?」


「あったりめーだ。誰のどんな臭いかなんて……ん?」


 彼女の鼻がかすかに動いた。

 なにかを感じ取ったようだ。


「どうしたんだ?」


「来てる」


「なにが? まさか怪物……」


「なわけなーよ」


「留美姉ちゃん、これ食べて!」


 扉を勢いよく開けて入ってきたのは、太一くんだった。


「こらこら。今は大事な仕事中なんだから……」


「でもでも! これ食べてほしいんだ!!」


 彼が両手で差し出してきたお皿には……サンドウィッチ(?)が乗っていた。

 少々不格好だが、三角に切り分けた食パンと卵やキャベツなどの具材が間に挟まっているのでサンドウィッチだ。


「これを……? あたしに?」


 傍から見ていた僕でもわかるくらいに、彼女の顔が喜びと嫌悪、困惑が混じり、目まぐるしく変化していた。

 それもそのはず、昨日太一くんから聞いたのだが、彼女は食事が好きではないらしい。

 だが、彼女は太一くんからのプレゼントは喜んで受け取りたいはずだ。

 かなり困ったことになっているようだ。

 僕は、面白そ……興味深いのでことの成り行きを観察してみることにした。


「うん!! お姉ちゃんがごはん好きじゃないのは知ってるけど、でも俺は食べてほしんだ!」


「だが……」


「鼻がいいお姉ちゃんなら気づいてるでしょ? 今回は、匂いで楽しめるようにいろんな工夫してみたんだ!」


 へー。

 彼なりのこだわりがあるようだ。

 僕は少し嗅覚が鈍いからあまりわからないが、でも見た目はおいしそうだよね。


「しゃーねーな。食ってやるよ!」


 最終的には、若干顔をひきつらせながらサンドウィッチを口に運ぶことにしたらしい。


「どう?」


 じっと、留美子の顔色を伺う。


「うん……うまいな、これ!」


 どうやら成功のようだ。

 彼女の顔も明るくなった。


「でしょ!?」


 すごいな。

 味覚のない彼女にうまいと言わせるとは。


「噛めば噛むほどいい匂いがするように、がんばって作ったんだ!」


 彼も彼で、頑張って作ったようだ。

 料理にかける思いは人一倍みたいだからな。

 彼女にも、食事の楽しさをわかってもらいたかったのだろう。


「へへ、ありがとうよ!」


 うんうん。

 やはりごはんは人を笑顔にするものでなくっちゃな。


「……ちなみに俺の分は?」


「ない!」


 嫌われ……てはないだろうが、好かれてもないみたいだな……。

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