第三十三話 背後
「あの女の人が、次の仲間なのか?」
「あぁ」
今日は僕だけじゃなく、一緒に太一くんも連れてきた。
特に理由はない。
室内にこもりっきりだったので、たまには外の空気を吸わせてあげようとも思ったからだ。
「正確には、まだ仲間じゃないな」
「なんでだ?」
「彼女は……一人で戦うって決めてるんだ」
「ふーん」
わかってるのかそうじゃないのかといった返事。
まあ、むやみに飛び出していかないならそれでいい。
「そういえば、彼女は怪物が臭いって言ってたけど、太一くんはそういうのわかるのか?」
「えー、あー、わかるのもいるし……」
「わからないのもいるのか?」
「うん。あと、たまにいい臭いのやつもいるぞ。お腹が減ってくるような」
「そうか」
彼は臭いで何を食べるか決めることもあるんだな。
彼の食の基準が少し明らかになる。
ただ、そもそもあの怪物の臭いがしない僕達からすると未だ謎だが。
――――――――――
ここは廃校。
十年ほど前から使われなくなっている。
外壁にはひびが入り、じわじわと蔦に覆われだしている。
そんな不気味な建物に、一人入って行く彼女。
「……」
僕達も後をつけていく。
ホコリの積もった玄関から、中へ。
「見るからに……出そうだな」
人気のないところは、格好の巣だ。
出ないはずがない。
だが、彼女は危険を避けたいわけではないらしい。
むしろ、危険に自ら遭いに行く。
その手で葬り去るために。
「学校の中は、まだ行ったことないな。どんなやつがいるんだろう」
一見すると、僕と同じことを考えていそうだが、たぶん違う。
なぜなら、彼はよだれを垂らしているから。
レストランにでも来た気分なのだろう。
「そこかぁ!!!」
ぎしぎしと僕達の足音だけが響いていた校舎に、いきなり彼女の叫びが轟いた。
次の瞬間、鈍い打撃音がする。
またしても、グロテスクに頭を叩き割られた怪物……の死体が現れた。
ゴーグルなしでも見えるということは、もう仕留めたということで間違いない。
今日も彼女は絶好調で、さらなる獲物を探しにその場を後に……。
「あ、危ない!!」
「え!?」
突如として、太一くんが走り出した。
行き先は、目の前の彼女の方だ。
僕にはなにが危ないか分からなかった。
「くらぇ!」
彼女の背中手前の虚空を殴る彼。
僕からは、彼女を殴ろうとしてるようにしか見えなかったが……。
彼の拳が止まる。なにかに当たる。
「お姉さん、とどめ!」
まだ仕留めきれなかったようだ。
すかさず前を歩いていた彼女に声をかける。
彼女もここに来て、気配を察知したようで、バットを振り下ろした。
「ここか!!」
血しぶきがあがる。
何度も言うが、見えるということは仕留めたということだ。
二人は至近距離で怪物の血を浴びてしまい、真っ赤になっている。
「う〜ん、うまい!!」
舌なめずりをして笑顔の太一くん。
いや、味わってる場合じゃないだろ。
「いや〜、不覚だったぜ。臭いが混じってたから片方に気づかなかった。ありがとな、坊主」
「へへ、どういたしまして!」
ポンポンと頭を撫でられて満足げだ。
「案外……」
このコンビ、相性がいいのか?
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