第三十二話 家

「おはようございますっ!」


 朝早くの公園に、僕のあいさつが響く。


「……あんた。また来たのか」


 面倒くさそうに睨んでいるのは、釘バットを持った女の子だ。


「無理に仲間になってくれとは言わない。だが、せめて話を聴かせてほしいんだ」


「……」


 断らないということは、少しは話をしてもいいということだろうか。

 いつ彼女の気が変わるかもわからない。

 さっそく最初の質問だ。


「なぜ君は……君達一家はここを守り続けてるんだ?」


「だから昨日も言っただろう。ここがあたしらの縄張りだからだよ」


「どうしてそこまです……」


「ああん?」


 まずい。

 なにかが彼女の逆鱗に触れたようだ。

 ズンズンと僕に歩み寄ってくる。


「てめぇ、家を、家族を守るのに理由がいるってのかよ」


「す、すみません。そうですよね」


 彼女にとっては、ここが家なんだ。

 この地域は、みんな守るべきもの。

 なんとなくわかってきた。


「それで、もう一つ訊きたいことがあって」


「今日はそれで終わりにしろよ」


「具体的に、どうやって見えているんですか?」


「……」


「ある者は、耳がいいから。またある者は、目がいいから。あなたはどうやって?」


 ここまでの能力者の特徴から考えて、なにかしらの五感が関係しているはずだが……。


「……臭うんだよ」


「臭う……」


 つまり、嗅覚か。


「鼻が曲がりそうな、便所とかゴミ捨て場よりもくっせー臭いがプンプンすんだよ」


「……」


 強烈な臭いを元に位置を把握してるってことか。


「そんなもんが家んなかにあったら、とっとと捨てたくなるだろ?」


 だから、一匹残らず排除するのか。


「わかった」


「んじゃ、あたしは忙しいからまた後でな」


――――――――――


「たしかに、彼女の言うとおりだ。あの〇〇公園を中心とした約半径2㎞圏内…………具体的に言うならば△△町の1丁目から3丁目は、怪物の報告数が少ない」


 先輩は、大きな地図を広げている。

 赤のペンで大きな丸が一つ。

 そこが彼女の縄張りだ。


「単なる偶然かと思っていたが……」


「彼女がやったんでしょうね」


「先日の食いしん坊ボーイとは違って、無差別に殺して回っているわけではないからこちらとしても対処はしやすい。というか、後処理まで彼女が自分でやっている」


 だから、今まで僕達も気づかなかったんだ。


「だが、彼女もまたここの戦力になり得る貴重な人材だ。野放しにはできない」


 ということは……?


「鈴木、頼んだぞ」


 やっぱり僕の仕事になるのか。

 昨日はあんなに怒られたのに、今日はむしろ信頼されている。

 言い方を変えれば、面倒事を丸投げされたかも……。

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