第ニ十九話 調整

「あー、また折れちゃったな」


「……え?」


 戦闘訓練をしていると、彼が不穏な呟きを漏らした。


「なにが……折れたの?」


 恐る恐る尋ねる。


「たぶん腕」


「腕!?」


――――――――――


「なーんで僕のところに来たんだーい!」


「いや、便利な道具といえばお前だからな」


 テンションが高いのは気に食わないが、お前の力が必要なんだ。


「ふむ……では、今回はなにを?」


「彼になんだけどね」


 僕の後ろに隠れている太一くんをちらりと見る。

 案外人見知りなのかな?

 それとも、このマッドサイエンティストに怯えてるだけか。


「は、はじめまして!」


「ほーう」


 毎度思うが、彼のこの目は実験動物を見てるようなんだよな……。


「どうしてギプスをしてるんだい?」


「そう、それこそが今回の本題なんだがな」


「……」


「これを見てくれ」


 さっき医者からもらったレントゲン写真を見せる。


「わーお! 見事に折れてるね!!」


 楽しそうに言うことじゃないけどな……。


「それもこれも、彼には触覚がないからだ」


「触覚が……ない!?」


 案の定、新しいおもちゃを見つけた犬みたいに興奮しだした。


「だからどうしても力の調整ができないでいる」


「逆に言えば、人体の限界を超えたフルパワーを出せるわけだ!」


「そう……なんだが、毎回それやってたら体が保たない。なにか、力を使いつつ体を壊さないようにできる道具を作ってやってくれないか?」


「せっかくリミッターが外れてるっていうのに、また付けるのかー。惜しいな……」


 こいつ、なにやら良からぬことを考えだしたな?

 だが、頼れるのはこいつだけだ。


「頼めるか?」


「イエース!」


――――――――――


「ジャジャーン!」


「うおおっ!?」


 彼に呼び出されて、何ができたのやらと研究室に行くと、パワードスーツが出来上がっていた。

 中にスペースがあるので、そこに入って着るのだろう。


「これね、見た目はすごいけど、別に筋力増強とかの効果はないから君が着ても関係ないよ」


「え、じゃあどんな効果が?」


 だって普通パワードスーツは力を上げるためのものだろう?

 でないと、何に使うんだ?


「使いづらすぎて倉庫の奥に眠っていたアイテムを引っ張ってきて材料に使ったんだ」


「えぇ……」


 また研究所が収容してるものを勝手に組み込んだのか。

 いつか怒られないか、俺がヒヤヒヤする。


「さて、どんな効果だと思う?」


 さっきからそれを知りたいんだが、お前が長々と話すからわかんねーんだよ!


「……」


 倉庫で眠っていたんだろ?

 てなると、危険なアイテムではなさそうだし、特に役に立つアイテムでもなさそうだよなー。


「正解は〜……太一くん〜!」


「おう!」


 彼は意気揚々とパワードスーツを身に着け始めた。

 どうやら実演してくれるらしい。


「これを着るとな……」


「……」


 なにか……変わったか?

 これといっては……。


「治るんだ!」


 唐突にギプスを取る太一くん。

 何不自由なく動かしているので、本当に治ったようだ。


「なんと、このパワードスーツの素材には「身に着けると怪我が瞬時に治る包帯」が使われているんだ!」


「おおっ!」


 それはすごい!


「いや……待て……」


 いろいろ突っ込むところがある。


「なんでそんな便利なものが倉庫に?」


 普通に実用可能だから、放置されているわけ無いだろ。


「実はこの包帯、条件があってね。「自分が原因の怪我しか治せない」んだ」


「あー……」


 それは使い勝手が悪いな。

 日常生活でなら使えなくはないが、戦闘には向いてなさそうだ。

 その性能じゃ、転んで擦りむいたときに役に立つくらいだもんな。


「彼は強すぎる力で自分の体を壊すから、相性ぴったりさ!」


「うん、そうだけど……」


 倫理的にアウトなところがあるだろ。

 だってそれ。


「怪我すること前提じゃねーか!」


「そうだよ?」


「そうだよじゃねーよ! 僕は力をセーブして、怪我をしない道具を作れと……!」


「まあー、いいじゃん。彼も喜んでいることだし」


「……」


 改めて、部屋を動き回る彼を見つめる。


「わー! かっこいいなー! 早く戦いたいなー!」


 う〜ん。

 男の子ってのは、ロボが好きだよな。

 わかる。


「まっ、いっか」


 本人も気に入ってるみたいだし。

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