第二十八話 試食

「バッッッカ野郎!!」


「ひぃ……!!」


 さすがの先輩でも許してくれなかった。


「たしかに彼らは今後の研究の手がかりになる貴重な人材だ。できる限りの要求は受け入れてやりたい……が!!!!」


「……」


「ここはレストランじゃないんだぞ!?!? 数に限りのあるサンプルをおいしく振舞えってか!?!?」


「す、すいません……」


「生死を問わず、どの個体も研究されて然るべきだ。けっして鍋にいれていいもんじゃない!」


「はい……」


「わかったら今すぐ断ってこい!!」


「わ、わかりました!」


 大変なことになってしまった。

 やはり、考えなしに行動するのは良くないな。


 僕が部屋から出ようとドアに手をかけたとき。


「ただし」


 どうやら先輩の説教はまだ続きそうだ。


「彼の能力は気になるところだ。怪物はまだ許可できないが、ちょっとしたテスト用に普通の食材で料理を食べさせる実験は許可してやる」


 せ、先輩!


「ありがとうございます!!」


――――――――――


「今日は、君の能力を試す実験だよ」


 やって来たのは、食堂。


「実験?」


「これが?」


「試食じゃないんですの?」


 僕と太一くんだけでなく、暇そうにしていた二人も付いてきた。

 本当は実験の邪魔になるし、部外者を入れちゃいけないんだけど、まあ一応関係者だしいいよね。


「ここにあるのは、二種類の豚肉だ」


 テーブルには、焼きたての(さっき僕が自分で焼いてきた)お肉が盛られた皿が二つ並べられている。


「ここにある二皿のうち、片方はアメリカ産。もう片方は、日本産だ。さあ、君達に見極めることができるかな?」


 ちなみに、値段が高くておいしいのは日本産だ。

 見た目はほぼ同じなので、焼いた本人の僕でもない限り違いはわからないだろう。


「では、太一くん。まずはAのお肉を」


「おう!」


 彼はつまようじが刺してある肉片を口に運ぶ。


「うん、うまい」


「おいしいね」


「そうですわね」


 なぜか関係ない二人も食べる。

 それ実験用のお肉だから、無闇に食べたらまた怒られそうだけど、どうせ余ったら僕が食べることになるんだしいっか。


「次に、Bのお肉」


「うんっ! こっちもうまい!」


「あっ、こっちは……」


「真、結果発表の前に言ってはダメですわよ」


「そうだった、ごめんごめん」


 楽しそうに肉をほおばる三人。

 てか、真くんはもうわかったのか?

 そんな馬鹿な。

 けど、今回の本題は太一くんだ。


「それでは、太一くん。どちらがアメリカ産かな?」


「Aだ」


 即答だ。


「ど、どうしてそう思うのかな?」


「そのお肉を食べると、育ててくれた農家のおっちゃんの顔が浮かぶんだ」


「ほう、もっと詳しく」


「外国人の、金髪のおじさんが子豚のときから大切に俺を育ててくれたんだよ」


「な……るほど」


 そんなことまでわかるのか。


「それは……食べたらわかるのか?」


「うん。食ったら、なんて言ったらいいんだろう。もう一つの俺みたいな感じでわかる」


 つまり、記憶を追体験してると?

 そうか、だから怪物のあれこれも感じられるのか。

 メモしておこう。


「そこまではできませんけど、僕もわかりましたよ」


「私もですわ」


「ええっ?」


 関係ない君達も?


「だってAのお肉、固いんですよ」


「なんで固いからって、判別に結びつくんだ?」


「こう……噛んだときの音が違うんです。説明しにくいけど、アメリカ産の豚肉特有の……」


「あぁ……」


 彼はそっちで当てたのか。

 さすが耳がいいだけある。


「有栖は?」


「だって、見たらわかりますわ。表面の質感が違うじゃないですの」


 当然だと言わんばかりに言ってのける彼女。


「見たら……わかるのか?」


「それは有栖だけだよー」


「さすがに見ただけじゃわからなかったなー。有栖お姉ちゃんすげー!」


 さて、かなり面白い実験結果だったな。

 太一くんだけじゃなく、みんなの能力やその活用具合がわかった。

 さっそく報告書を書かなきゃ。

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