第二十七話 ゲーム

「こんにちは。僕は田中真だよ」


「私は立川有栖ですわ」


「君はなんて名前かな?」


「……」


 人見知りなのか、返事をしてくれない。

 でも、鈴木さんは彼が遊び相手をほしがっているから行ってやれと言っていたし。


「ねぇ、君。一緒にトランプやらない?」


 僕はポケットから取り出して、それを見せた。

 その瞬間、彼の顔がパアッと明るくなった……気がする。


「やる……!」


「よし、決まりだね」


 箱からカードを出し、シャッフルし始める。


「あら。真は……その……見えますの?」


 ちょっと言いにくそうに気にかけてくれる有栖。

 ふふふ、君の考えていることはわかるよ。


「安心して。このトランプは、カードに点字が書かれているから、数字や記号がわかるんだ」


「なるほど。それは安心ですわね」


「うん。それじゃあ、なにをやるかな?」


「ババ抜き!」


「ババ抜きだね、りょうかい」


 ババ抜きか。

 僕が一番得意なやつだ。

 楽しみだな。


――――――――――


「有栖、どっちがババなの?」


 最終局面。

 僕達の手札も残り数枚。

 僕の手持ちは一枚。

 有栖は二枚だ。

 必然的にあのどちらかがババのはずだ。


「お、教えませんわよ?」


 冷静を装っているが、隠してもバレバレだよ。

 だって、心臓がドクドク言ってるんだもの。

 それに、声から焦りがにじみ出ている。


「こっち?」


 右のカードに手をかける。

 有栖は黙っているし、呼吸は比較的穏やかだ。


「それとも、こっち?」


 左のカードに手をかける。

 今度は呼吸が少し乱れた。


「ふふ」


 左が取られちゃまずいカードみたいだ。


「それじゃあ……こっちだ!」


「ああっ!」


 僕は見事にババを避け、数字を取った。


「僕も上がりだ」


「わー! すごい!」


「悔しい……ですわ」


 こうして僕は見事有栖に勝った。

 けど。


「2番なんだよなぁ」


「あなた、とってもすごいですわね!」


 うん。

 僕が負けるなんてな。


「君、改めて聞くけどさ。名前はなんていうの?」


「俺は……桜田太一だ」


 今度は名前を教えてくれた。


「太一くん、よろしくね」


「よろしくお願いしますわ」


――――――――――


「どうだったかな、太一くん?」


 僕はしばらく仕事をしてから、再び彼の部屋に立ち寄った。

 聞かずともわかるほど、彼の顔は笑顔だった。

 すっかり緊張がほぐれたようだ。


「楽しかったぜ!」


「それはよかった。あの二人、とってもいい人達だろ?」


「うん!」


「だからさ、しばらくここにいてくれないかな……?」


「……」


 半ば強制というか、強引なのはわかっている。

 それでも、君のような人が必要なんだ。


「僕達の目的は、あの怪物を倒すことだ」


 君も、倒すために旅の出たのならわかってくれないだろうか。

 僕は固唾を呑んで、返事を待った。


「……れるか?」


「え?」


 彼が小さく呟いた。


「もっと……食べれるか!?」


「あー……」


 うーん。

 まあ……。

 許可が下りるかは、なかなか怪しいけど。


「食べれるはずだ!」


 言い切ってしまう。

 すると、彼は両手を上げて喜んだ。


「やったー! 俺、もっと美味しいやつ食べたい!」


 なんだか僕達の目的とは微妙にズレている気もするが、一応打倒怪物は一致している。


「うん。そのためにもよろしくね!」


「おう!」

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