第二十六話 きっかけ

「今日のインタビューを開始する」


 僕の予想では、彼には真くんや有栖のような特殊な能力があるはずだ。

 でなきゃ、見えるわけないからな。

 今日こそはそれを見つけたいのだが。


「その前に離せよ!」


「……」


 未だ拘束されている彼が吠える。


「おい、聞いてんのか!」


「あー……離すのはいいんだがな、一つお願いがある」


「なんだ!」


「しばらくは、この部屋から出ないで大人しくしててほしいんだ」


「……」


 こちらとしても、まだ君の正体を掴めていないから一応ね。

 危険人物じゃないとわかったら、そこそこの自由は認められるはずだ。


「それができるなら、外すけど」


「わかったよ」


――――――――――


「それでは、改めて。いくつか質問してもいいかな」


「……」


 拘束を解いたが、彼は暴れる様子はない。

 少しは協力してくれる気になってくれたのかな。


「君があの怪物を見えるようになったのは、いつからかな?」


「覚えてない」


「そうか」


 まあ、あの二人もそうだったからな。

 となると、元から?

 それとも。


「なにか、衝撃的な出来事とかなかったかな?」


「どういうことだ?」


「すごく記憶に残っていることとかある?」


 それが原因で能力がってこともある。 


「うーん……。あ、あれだ」


「あれ?」


 なにか思いあたることがあるのかな?


「前、孤児院の近くの公園に遊びに行ったとき」


「ほう」


「なんかの動物の死体があってさ」


「死体……?」


 それがまさかあの怪物の?


「棒で突っついてたら、血がぶしゃーって」


「……」


「そんで、口に入っちゃったんだけどさ」


 口に?

 危ないんじゃないかそれ?

 彼らの毒性についての調査はまだ途中だが、そもそも野生動物の、それも死骸ともなると感染症のリスクがあるのだが。


「結構おいしかったんだよね」


 おいしかった?

 なかなかすごいことを言うな、この子。

 というか、彼の怪物喰いはここから始まったのかも知れんな。


「あ、たぶんここらへんだったかも」


 さらに思いついたような彼。


「なにがかな?」


「あいつらがわかるようになったのは」


「わかるって……。たとえば、どんなことがわかるのかな?」


「どんなって……いろいろだ」


「いろいろ?」


「どんな奴かとか、なにを話しているとか、得意なものはなにかとか」


「え……」


 こいつはすごいな。

 見えるし、聞けるのか。


「だから、俺。もっと知りたいなって思って旅に出たんだ」


 彼が孤児院を出た目的は、単なる好奇心だったと。

 それも、危険な怪物への。


「わかった。今日はここまでにしよう」


 僕はとりあえず情報をまとめるために、部屋を去ろうとした。

 そこへ、彼が遠慮がちに呼び止めた。


「な、なぁ」


「どうした?」


「誰か……一緒に遊べるやついないか?」


 遊べるやつ……。


「あぁ、それなら……」


――――――――――


 はたして、彼の能力はなんだろうか。


 目が見えない真くんは、耳がいい。

 耳が聞こえない有栖は、目がいい。


 触覚がない彼は……?


「おかしいな……」


 彼は見えるし、聞こえると言っていた。

 彼一人で、真くんと有栖の二人分の能力がある。

 これはただ彼の聴覚と視覚が発達しているだけなのか?


「どこかひっかかる……」


 特にあのエピソード。

 怪物の血がおいしかったと。

 そして、それがきっかけでわかるようになったと。

 彼は、なにかしらの怪物由来の感染症にかかり、それが原因で見えるようになったのか?


「いいか、鈴木。ものごとってのは、案外単純だ」


 先輩がコーヒーを持ってきてくれた。


「あ、ありがとうございます」


「俺がコーヒーを飲むのは、コーヒーをうまいと感じるからだ」


「はい……?」


「彼が怪物を喰うのも、怪物をうまいと感じるからだろうな」


「……?」


「人はなぜ、うまいと感じるか。わかるか?」


「それは……あっ」


「そう、それこそがおそらく彼の能力だ」

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