第二十四話 事情

「おい! だましたなお前!!」


 椅子に縛り付けられた少年は、倒れそうなほどガタガタと体を揺らす。

 威嚇する獣のように歯をむき出しにして。


「いや、だましてはないよ……?」


 一応ご飯は出しただろ?

 まあ、その後拘束することになるとは言ってなかったけど。


「なにをする気だ!」


「まあまあ、落ち着いて。なにも取って食おうってわけじゃないんだから」


「離せよ!」


 埒が明かないな。

 もう始めちゃうか。


「まず最初に。君の名前を聞かせてくれ」


「名前なんか教えるもんか!」


「……」


 かなり反抗的だな……。

 名前すら拒否られた。


「じゃあ、仕方ない。ナンバー3と呼ぶことにする」


「ナンバー……3!?」


「それで、次だ。3はどうして怪物がわかる?」


「怪物?」


「君が倒していたあの生き物がどうして見えるんだ?」


「ああ……? どうしてもクソもねぇよ! 見えるから見えるんだよ!」


 うーむ。

 やはり、真くんや有栖のように怪物を感じられるなにかがある者にとってはあの怪物は日常の風景だ。

 理由を聞いたところで答えられるわけないか……。

 ならば、こちらが探すまでだが。


「君、なにか他の人と違うところは?」


「違うところ!? あー……感覚がないとことかか?」


 さっきから思っていたのだが、なんだかんだまじめに答えてくれている。

 それに、考え込んだ後の少年は次第に冷静になっている。

 根は良い子なのかもしれん。


 じゃなくて。

 彼は今、気になることを言っていたぞ。


「感覚がない? つまり?」


「なんにも感じねーんだよ、触っても!」


「それは……」


 触覚がないということか。

 それが本当なら、彼はかなりの苦労をしてきたはずだが。


「本当になにも感じないんだな?」


「ああ!!」


――――――――――


 元気のいい彼とのインタビューで疲れた僕がデスクに戻ると、机の上にファイルが置いてあった。

 それは、諜報部がまとめてくれた情報が載っているファイルで、もちろん中身は彼についてだ。


「彼の名前は桜田太一さくらだたいち


 よかった。

 これでナンバー3と呼ばずに済む。


「××孤児院に去年までいたが、突然失踪」


 孤児院か……。

 わけありのようだな。

 それに、失踪か……。


「親に関する情報もなく、不明なことが多い」


 う〜ん。

 せめて彼がなぜ怪物を感じられるのかのヒントを見つけたいな……。


「ん?」


 最後のページに、先輩が挟めたと思われるメモがあった。


「鈴木、孤児院の院長に聞き取り調査に行ってこい」


 メモの下には孤児院の住所。


「……行くか」


 今のところ、一番彼を知っていそうな人物がいる孤児院へ。

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