第二十三話 捜索

「それで、お前はまたもや怪物がわかる奴に出会ったわけか」


 先輩に報告するのも慣れてきたな。


「はい」


「で、どこにいるんだ?」


「……いません」


「……」


 やべ、睨まれてる。


「逃げられたんです」


「逃げられた?」


「次の獲物を探してくるって、どこかに行ってしまったんです」


 おそらく彼の言う「獲物」とは、僕達が調査している怪物のことだろう。


「……なんて奴だ」


 先輩は呆れ顔だ。


「今日の調査はほとんど終わったところだったので、とりあえず帰ってきました」


「……う〜む」


 腕組みをして、先輩はこう言った。


「お前は本当に厄介事を見つける天才だなぁ」


――――――――――


 後日。

 僕は先輩に呼ばれた。

 部屋に入ると、地図が貼ってある。

 そして、いくつかのバツ印もついていた。


「このバツ印は化け物の目撃情報があった場所の中でも、現場に向かうと、そこにはすでに死体しかなかった事例だ。いや、人間ではなく怪物の死体があったんだ」


 つまり、すでに誰かが倒していたってことか。

 彼の可能性もあるわけだ。


「そして、地図を見ると、どんどん北に移動してるのがわかる」


 本当だ。


「ということは、彼がその方角に進んでいる可能性があると?」


「あぁ。おそらく次の目的地は✕✕公園。以前から何体かが巣を作っていることが確認されている。それを狩りに来るだろう」


「……」


「お前の任務は、この変人を捕獲することだ」


 変人……。

 まあ、変人か。

 わざわざ怪物を倒して回ってるからな。


「しかし、捕獲なんて荒っぽいことを……」


「我々が密かに対処している怪物を片っ端から殺されたら敵わん。もうこいつは十分危険人物だよ。やむを得ん」


――――――――――


「あそこにいる鳥の怪物」


 公園に来た僕と真くん、有栖は確認をする。

 ゴーグルで覗くと一匹の怪物がベンチでスヤスヤと寝てやがるが、そいつが今回のターゲット。


「ではなく。そいつをぶちのめしに来るであろう、この前出会った彼がターゲットだ」


「また勧誘するんですか?」


「そのつもりだが……場合によっては捕獲しろと言われている」


「捕獲……?」


「この公園には2つの出入り口がある。そこ以外は高いフェンスに囲まれていて侵入することは不可能だ」


 普通の人間なら……。


「有栖、お前は公園の中央にある塔に登って、彼がどっちに逃げるのかを監視しろ。そして、出入り口にいる捕獲部隊に伝えるんだ」


「わかりましたわ」


「さて……」


 僕と真くんは茂みにでも隠れていようかな。


――――――――――


「鈴木さん! 公園の中央にいる怪物に向かって一直線に走っていく人物を確認ですわ!」


 しばらく待っていると、有栖から通信が入った。


「なに!」


「噴水の近くですわ!」


 なるほど、噴水ってのはあれだな。

 そして、こちらに来てるやつは……。


「あいつか」


 容姿は真くんと同年代の少年に見える。

 半袖シャツに短パンで、動きやすい服装だ。

 顔にはなぜか笑顔を浮かべている。


「なにをする気だ?」


 彼が見えていることは確実。

 そして、なにをするかもほぼ確実。

 さすがに戦闘中に割り込むのは危険なので、決着がついてから話しかけることにする。


「今日の晩飯はチキンか!」


 彼の嬉しそうな声が聞こえる。

 こんなときになんのことを言ってるんだ?


「気づかないふりをして……おらぁ!」


「すごいな……」


 彼は完全にわかっているな。

 あの怪物の横を、まるで見えていないかのように素通りすると見せかけて強烈な右ストレートをお見舞いした。

 油断していて一発KOされた鳥型の怪物は、死んだことにより姿が顕になる。


「……」


 僕は逃げられる前に、もう一度勧誘しようと思い、茂みから出て近づく。

 今度は都合のいいことに、少年はしゃがみこんで死体を見つめているので、かなり近づけた。


「……って!」


 違う……。

 見てるだけじゃなかった。

 解体してるんだ。

 どこかに隠し持っていたナイフで、巧みに捌いている。


「あ、あの、君」


「なんですか〜?」


 振り向きもせずに、黙々と切り分けている。


「前にも会ったことがあるんだけどさ、君についていろいろ聞きたいから……」


「あんた警察?」


「いや、違うよ」


「それじゃあ、なに」


「その怪物について、研究してるんだけど……」


「あっそう」


「ぜひついて来てくれないかな」


「……」


 困ったな。

 聞く耳を持ってくれないぞ。

 このままじゃまたにげられる。


「えーと、じゃあ……」


「俺、飯食うから帰る」


「ええ……あー……」


 彼は立ち上がり、スタスタと去っていく。

 なにか、彼を引き止める言葉を。

 飯……。

 飯って、それを食べるのか?

 もしかして彼、ご飯に困ってる?


「ご飯……奢ろうか?」


「え!?」


 勢いよくバッと振り向いた彼は、目をキラキラと輝かせている。


「おいしいご飯奢るよ」


「ほ、ホントか!?」


 すごく食いつきがいいな。

 よっぽど食糧難だったのだろう。


「あ、ああ。だから、ついてこないか?」


「行く、行くぜ!」


「ありがとう……」


 いいのかな。

 こんなんで。

 なんだかあっさり捕獲できた。

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