幕間 「束の間の平穏」

第二十一話 休暇

「よーし、今日は遊園地に行くぞー!」


「え?」


「遊園地……ですか?」


 どうしてって顔をしているな。

 教えてやろう。


「休暇だよ、休暇。たまには体を休めて、楽しいことをしないとな」


「いいんですか?」


「いいに決まってるだろ。君達は大活躍してくれたんだから」


「……」


「こんな暗ーい研究施設に籠ってたら、病気になるぞ。ほら、外出の準備して」


 まあ……この研究施設に連れてきたのは僕なんだけど。

 そんなことは今問題ではない。


――――――――――


「着いたな」


 電車やバスに揺られて一時間ほど。

 目的地に着いた。


「あの……ここって?」


「知らないのか? あの超有名な〇〇ランドを」


「え、ここって〇〇ランドなんですか!?」


 目が見えない真くんはまだ気づいていなかったみたいだな。


「そうだぞ。ほら、君達のチケットだ。無くさないように」


 僕は二人にチケットを渡して……。


「どうした有栖?」


 有栖は遊園地のゲートを見つめて、ボーっとしている。


「私、小さいころに両親と行ったことがありまして……」


 しまった。

 彼女は愛する両親を思い出したようだな。

 だが、ここでしんみりして帰ることもできない。


「有栖さん、行きましょうっ!」


「あ、真さん!」


 ちょうどよく真くんが有栖の手を引いて行ってしまった。

 これで一安心……じゃないな!

 僕は二人の保護者なんだから、後をついて行かなきゃ!

 目が見えている僕より早く走る真くんに、必死についていく。


――――――――――


「有栖さん、あとどのくらいですか?」


「ま、まだ登っていますわ」


 このジェットコースター、高いな〜。


「そろそろ頂上ですか?」


「い、いえ、もう少しですわ」


 いや〜、降りてからは急カーブだな。

 酔いそう……。


「もうてっぺんでしょ」


「そう、ですわ……きゃあーーーー!!!」


「うわ〜〜〜〜!!!」


 う~む、この二人なかなか楽しんでいるな。

 いいカップルだこと。

 僕としては、目が見えない彼は楽しめるだろうかと余計な心配をしていたが、杞憂だったな。

 彼には彼なりの楽しみ方があるのだと再認識した。


――――――――――


「そこですわっ!」


「おおっ!」


「次はそこっ!」


「おおおっ!」


「最後はそれっ!」


「すごーーい!!!」


 ここは射撃場。

 次々に現れる的を撃ち抜くと、景品がもらえるんだよな。


「お嬢さん、すごいねぇ。パーフェクトだなんて、おじさん初めて見たよ」


「ふふふ、当然ですわ」


 やはり有栖の視力はすごいな。

 あれは単純な視力だけじゃないよな。

 動体視力もいいからこそのこの結果だな。


「わーい、ぬいぐるみですわー!」


――――――――――


「ひぃ、怖い!」


「わ、私もですわ!!」


 ならなんでお化け屋敷に入ったんだよ。

 二人仲良くくっつきやがって。

 ったく、日頃からお化けより怖いものがいるってのにな。


 それにしても、お化け屋敷はいいね。

 視覚と聴覚の両方で驚かせに来るから、彼らでも楽しめる。

 もちろん両方見える僕としては。


「うおっ!」


――――――――――


「最後はあれ、乗りましょう!」


「観覧車ですわね」


 おぉ、観覧車か。

 いいねぇ。

 今なら夕焼けも楽しめる。


「鈴木さんは乗らないんですか?」


「いや、僕はいいよ。二人で乗ってきな」


 その方がいい雰囲気出るでしょ。

 てなわけで、二人が乗ったゴンドラを外から見守る。

 いったい中でなにを話しているのやら。


――――――――――


 観覧車に乗った。

 すごく久しぶりだ。

 ゴンドラの上の方にある小さな窓からささやかな風が吹き込んでくる。

 高い景色は見えないけれど、この風が僕は好きなんだ。


「真さん」


 有栖さんが話しかけてくれた。


「呼び捨てでもいいですよ、有栖さん」


「あら、それなら私も呼び捨てにしてくださいまし」


「ふふふ、わかりました」


 しばらく沈黙が流れた。

 いけない。

 有栖さ……有栖がなにか話そうとしてくれていたのに、僕が遮っちゃったな。


「私、ここに来れてよかったですわ」


「……」


 やっと話し出してくれた。


「ここに来る前は、こんなに明るくなれなかったんですの」


「……」


 有栖は、あんなに辛い過去があったんだ。

 だから、塞ぎ込んでしまうのもわかる。


「真さ……真はどうなんですの?」


「僕も楽しいです」


 即答する。


「ここに来る前は、みんな僕に気を遣ってくれていて……」


 それは悪いことではない。

 でも。


「嬉しいけれど、どこか寂しくもあったんです」


 なんだか僕だけ他とは違うみたいで。

 僕も、みんなと同じように接してほしいとよく思ってた。


「だから……。ここでは、逆に僕がみんなを守れるから! すごく楽しいです!」


「ふふふ、そうですわね」


「有栖」


「はい?」


「これからも、一緒に頑張りましょう!」


「言われなくてもそのつもりですわ!」


 僕達は、硬い友情の握手を交わしたのだった。


「……」


 このときに感じた胸のドキドキの正体に気づくのは、もう少し後だった。

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