第十九話 見えた

 僕は生まれつき目が見えない。

 理由なんて考えたことない。

 だって、僕にとってはそれが当たり前だから。


「来ますわよっ!」


 わかっているよ、有栖さん。

 奴の呼吸が荒くなった。

 走り出したんだ。

 足音も、小刻みになる。

 振動が、どんどん大きくなる。


「しっぽ! 右方向から!」


 空気を切り裂く音。

 なにかを勢いよく振ったときの音だ。

 問題は、こいつがステゴサウルスだってことかな。

 だって、しっぽがトゲトゲなんでしょ?

 こういうときは、ただかわせばいいってわけじゃない。

 それじゃあ、どうするか。

 空気の流れる音を聞くんだ。

 トゲとトゲの間。

 そこだけ、音がしないはず。

 だから、安全なそこに手をつけばいい。


「よっと!」


 硬い鱗に手が触れた。

 けど、トゲじゃなかった。

 僕はうまくトゲの間に手をつくことができたみたいだ。

 そのまま手に力を込めて、しっぽの方に跳ぶ。

 勢いよく体がトゲの間を潜り抜けた。


「ふう」


 跳び箱みたいで、ドキドキする。

 そんな風に楽しむのも束の間。


「次、頭突きが来ますわ!」


 頭突き?

 やっぱり。

 どうりで、息をする音が近づいてきてるんだ。

 でも、よかった。

 頭突きなら、僕の秘密兵器が使えるから。


 トントン。


 僕は相棒の白杖を、地面に二回ついた。

 すると、白杖が一瞬にして刀に変わった。


「すごいなぁ……」


 こんなのまで作れちゃうんだから。


「避けて!」


 目前まで頭が迫る。

 僕は有栖さんの指示通り避ける……のではなく、そのまま刀を真横に振った。


「ピーーーーー!!」


 聞いたこともない断末魔が響く。

 手ごたえもあったし、勝負ありかな。


「うわっ!」


 ぶしゃーっと、血が噴き出してきて全身にかかった。

 最悪だけど、倒せたからそれでいい。


「真くん!」


 鈴木さんが走り寄ってきた。

 抱きついてきそうな勢いだったけど、さすがに血まみれなのでそれはやめたみたい。


「すごい、すごいですわ!」


 有栖さんも、喜んでくれている。


「こいつは、とんでもねぇ逸材だな」


 こうして、僕の初めての戦いは成功に終わったのだった。

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