第十八話 自信

 地面が割れて動き出し、生き物の形になる。

 あまりに巨大で、視界を埋め尽くしている……のか?

 どうもゴーグルがうまく機能してないようで、シルエットが不鮮明だ。


「有栖、どんなやつだ?」


 彼女ならはっきり見えていることだろう。

 幸いまだ向こうにこちらを攻撃する意志は見えない。

 いわゆる寝起きだからかも。

 今のうちに、できるだけ情報を集めなければ。


「恐竜……ですわ」


「……恐竜?」


「えぇ……。あれはたぶん……ステゴサウルスですわ」


 ステゴサウルスくらい知ってるぞ。

 メジャーな部類の恐竜だ。

 背中にデカい棘……?

 板みたいなのが並んでるんだ。

 言われてみれば、そう見えてくる。

 四足歩行で、背中に突起物があるし。


「……」


 問題は。

 僕達がどうやって恐竜と戦うかだ。


「捕獲隊ベータ、一番強い網を用意しろ!」


 隊長はまた捕まえる気らしい。


「できました!」


「よし、撃て!」


 前の網よりも大きな網が放たれた。

 今回は有栖の合図なしに、即座にだ。

 目標がでかく、多少正確ではなくてもいいからだろう。


「キキキーン!」


 一鳴きしたと思うと、網が恐竜のしっぽに叩き落とされた。

 いや、そのまましっぽに絡みついているようだ。

 しかし、あれだけでは捕獲などできようもない。


「どうします、隊長!」


「くっ……! ここまでとはな、想定外だ!」


 捕獲の専門部隊も想定してないほどの敵だった。

 となれば、ひとまずここは。


「総員……」


「待ってください!」


「え!?」


 声を上げたのは、真くんだ。

 てっきり僕は隊長の命令で退却すると思っていたので驚いた。


「僕に、策があるんです。あいつを倒す」


――――――――――


 突入部隊の人達が、みんな帰っていった。

 この洞窟には、僕と有栖と真くん、隊長だけが残っている。

 そして、あの恐竜は大きな足音を立てながら、ゆっくりと洞窟内を歩き回っている。


「いったい彼はなにをする気なんだ?」


 隊長と同じ疑問を僕も抱いている。

 岩陰に隠れている僕達だが、真くんだけは恐竜のもとに歩いて行ったのだ。


「……」


 彼を失うわけにはいかない。

 止めるべきだっただろうか。

 だが、若い彼は言っても聞かなかったかもしれない。

 それに、なによりも彼の意思を尊重したかった。

 これは、組織としてではなく、僕個人の願いだ。


「有栖さん、あとどれくらいですか?」


 トランシーバーを使って、真くんが距離を尋ねた。


「10メートルくらいですわ」


「方向は?」


「もう少し右。そう、そっちですわ」


 真くんが怪物と正面で向き合った。


「ありがとうございます。後は、もう大丈夫です」


 なにが大丈夫なのだろうか。

 いくら耳がいいからって。

 いくら訓練をしたからって。

 いくら怪物を見慣れているからって。

 勝てるわけ……。


 だめだ。

 弱気になるな。

 彼を信じるしかないんだ。


「がんばれよ」

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